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なぜ、ここまでたくさんの視聴者をこのドラマの世界観に引きずりこむことができたのだろうか。人気を支えた要因の一つとして、個性あふれるさまざまな登場人物の活躍が挙げられる。彼らの行動は愛らしくて愛おしい。どうしても嫌いにはなれないのだ。彼らがこれだけ愛されたのは、それぞれがなにかしらのコンプレックスを抱えながら生きていたからではないかと思う。
東京在住時代は地味で暗かったアキ(能年玲奈)。上京したくてもなぜかできずにアイドルになるのを諦めて不良になったユイ(橋本愛)。自分の居場所を見つけられずに引きこもっていたストーブさんこと足立ヒロシ(小池徹平)。アイドルの影武者だった春子(小泉今日子)。その若春子をデビューさせることができなかった太巻こと荒巻太一(古田新太)。
最終回では、東日本大震災で被災した北三陸鉄道の一部区間が復旧し、お座敷列車でアキとユイが挿入歌『潮騒のメモリー』を歌い上げた。その歌は、春子と鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)にリレーしていき、これまでの名場面を振り返るシーンを織り込みながら終了した。
その涙は日本全国全方位のコンプレックスを浄化し、壮絶な余韻を残した。もっと『あまちゃん』が見たい。もっと浄化されたい。でも、放送は終わってしまった。毎日楽しみにしてきた視聴者の喪失感は計り知れず、“あまロス症候群”に陥る人が続出するのではないかとも懸念されている。
この現象を見透かすかのように、以前、春子はこんなセリフを残している。「ホッコリしないでよ勝手に! 何この空気!? 最終回!? 冗談じゃないわよ、人生はまだまだ続くのよ!!」。『あまちゃん』は視聴者のコンプレックスを浄化するだけではなく、現実に引き戻す優しさまでも持ち合わせていたのである。(文:梶原誠司)