ディズニー映画の最新作『マレフィセント』が7月5日に公開される。名作アニメ「眠れる森の美女」に登場する邪悪な妖精・マレフィセントが、オーロラ姫に“永遠の眠り”の呪いをかけたエピソードを新しい解釈で綴った本作で、幻想的な世界観を作り上げたのがCGクリエイターの三橋忠央氏だ。
世界的に成功を収めた作品に数多く携わった三橋氏に、日米の映画製作の違いや仕事への想いを聞いた。

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 劇中で躍動するピクシー(妖精)たちの表情や、物語の重要な鍵を握るマレフィセントの羽のCGを担当した三橋氏。スクリーンに映し出された映像は、実物以上にリアルで幻想的、技術力の高さに驚かされる。「ハリウッドの映像業界で仕事をするようになって14年ぐらいになるのですが、要求されるレベルが年々上がってきています。本作に関しても、どこまでリアリズムを追求するかがチャレンジで、羽に関しては、ある研究機関の布の質感を表現する論文などを参考に、細かな毛の部分まで再現しています」。

 こだわり抜いた映像制作には膨大な時間と忍耐力を要するが、三橋氏は「試行錯誤を重ね、1年半以上かかりました」と苦労を明かしつつも「ロバート・ストロンバーグ監督や(主演・プロデューサーも務めた)アンジェリーナ・ジョリーさんの情熱がすごく、とても影響を受けました。特にアンジェリーナさんは完璧主義者で妥協を許さない。でも逆に求められることが難しければ難しいほど燃えるし、成し遂げられた時の達成感があります」と高いモチベーションで作品に臨めることへの喜びを語った。

 そんな三橋氏の目には、日本のVFXの技術や映像制作への姿勢はどう映っているのだろうか。「日本のクリエイターは世界的に見ても優秀でレベルが高いし、もの作りへの情熱も素晴らしいと思います。ただやはり、予算においてもスケジュールに関しても、ハリウッドはスケールが桁違いなので、全体を一つのチームとしてまとめ上げていく部分で、日本は少し経験不足なのかなって感じます。その部分がクリアされれば、アッと驚くような作品が日本から世界に発信されることも十分可能だと思います」。
 父・三橋達也さん、母・安西郷子さんという俳優の元に生まれた三橋氏。子供の頃から映画は身近な存在だったと言う。「当時は当たり前だと思っていたのですが、今考えると、親父がハリウッドに行った時に買ってきた『スター・ウォーズ』のビデオみたいなものが家にあったり、自然と映画には親しんでいたんでしょうね。人生で一番最初に観た映画は、おふくろに連れて行ってもらった『未知との遭遇』でした。宇宙船が出てくるクライマックスシーンは強く印象に残っています。あとは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『インディ・ジョーンズ』なんかも興奮しましたね」。

 この経験は、現在の仕事を志したことに少なからず影響を与えているようで「僕自身が大人になっていく過程で、方向性がなかなか決められなかった時、自然と(CG業界に)興味が向いていったのも、小さい頃から映画に慣れ親しんでいたからなのかなって思うことがあります」と語った三橋氏。「でもCGクリエイターになろうと思った一番のきっかけは『トイ・ストーリー』なんです。最近、色々な日本の監督さんとお話する機会があるのですが、『トイ・ストーリー』がいかに歴史的にすごいことを成し遂げた作品なのかって話で盛り上がるんです」。

 単身アメリカに渡り、今の地位を築いた三橋氏。若いクリエイターたちには「今はインターネットなどで世界とつながっている時代。どんどん自分を試せる場を作っていってほしい。
レベルは高いですし、やれば十分ムーブメントの一部になれると思います」とエールを送る一方で「もし、仮にいくらでもお金を出してくれる人がいるなら『幻魔大戦』みたいな映画を作ってみたいですね。日本ならではのテイストを持ちつつ、国際色も豊か。大きなマーケットで勝負できる作品をやってみたいです」とワクワクするような夢を語ってくれた。(取材・文・写真:才谷りょう)

 映画『マレフィセント』は7月5日より全国公開
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