東日本大震災による福島第一原発事故から5年、真相が明らかにされぬまま幕が引かれつつある現状に、映画『太陽の蓋』が待ったをかけた。史上最悪の危機を迎えたあの日、官邸内でいったい何が起きていたのか。
情報収集に奔走する新聞記者・鍋島役で長編映画初主演を務めた北村有起哉が、作品を通して体感した原発事故当時の恐怖と緊張、そして無知・無関心であることへの罪について真摯に語った。

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 本作は、徹底した資料分析や事故対応当事者だった政治家、被災地・福島への直接取材を通して、2011年3月11日、運命の日から日本全土を揺るがした5日間を描く衝撃の社会派サスペンス。当時、菅直人政権にあった官邸内の事件(ノンフィクション)と、新聞記者・鍋島をキーパーソンにしたドラマ(フィクション)を対比させながら、5年前の“知られざる”真実に肉迫する。なお、菅内閣の政治家たちは全て実名で登場。あの日、私たちがメディアを通して目撃したことは、果たして真実だったのかを問う。

 徹底したリサーチによって作り上げた脚本を読む際、かなり緊張したという北村。
「私も役者である前に一人の人間なので、自分なりの考えもありますから、どちらかに偏り過ぎていないか、そのメッセージ性はどれほど強いものなのか、慎重に考えましたね」と述懐。「でも、読み込んでいくうちに、エンタテインメント映画としてしっかり成立していたので“私でよければ”とお引き受けしました。まさかこのような重いテーマで長編映画初主演とは…何か不思議な“縁”を感じました」と振り返る。
 
 巨匠・今村昌平監督作品などで名を馳せた名優・北村和夫を父に持ち、NHK連続テレビ小説『さくら』で人気を博した女優・高野志穂を妻に持つ北村。大きな背中を追いかけ、良きパートナーと切磋琢磨する彼にとってまさに待望の長編映画初主演、プレッシャーはなかったのだろうか。「主演といっても僕の役は、狂言回しのようなものですからね。
原発事故のシリアスな場面の中で、新聞記者として状況を俯瞰する役どころ。スクープを狙う記者魂が現場で躍動している方が(メッセージを伝える上で)映画のバランスが取れていて面白いと思いました」と冷静に分析する。 一方、最も印象に残っているシーンについては、「4号機のくだり」と表情を曇らせる北村。公開前につき、あまり言及はできないが、「日本は海水によって“たまたま”救われた」というくだりは、「これが仮に、ある学者の一説だったとしても衝撃的すぎる。真実ならなおさら」と言葉に力が入る。さらに「現場との連携が全く取れておらず、東電側はコソコソと事を進めていたようですが、当時の政権は随分となめられていたんだなと驚きましたね」とあきれ顔だ。


 「撮影当時(2015年11月)“原子力は明るい未来のエネルギー”と書かれたゲートの前で撮影したんです。あのシーンも感慨深いですね。数週間後に撤去されたそうなので、たぶん、あそこで撮影したのは僕たちが最初で最後かもしれない」と興奮気味に語る北村。「新聞記者という役を通して、原発事故に踏み込めば踏み込むほど、やばい、やばいぞと、忍び寄る恐怖を感じました。と同時に、無知・無関心でいることも罪だなと痛感しましたね。まず、知ること。
そして、おのおのがそれについて真摯に考えること。傍観者ではいけない、このまま風化させてはいけない、ということを私自身も学びました」と締めくくった。(取材・文・写真:坂田正樹)

 映画『太陽の蓋』は7月16日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。