【写真】美しすぎる…シャロン・テート本人
本作は、落ち目の俳優リック(ディカプリオ)と、彼のスタント・ダブル(危険なシーンを代わりに演じる代役)を長年務めるクリフ(ピット)の友情を軸に、1969年のハリウッドのとりとめのない日常を描いているが、その先で待っている“事件”を知って観るのと知らずに観るのでは、大きく印象が変わる。
1943年生まれのシャロンは、22歳のときにスクリーンデビュー。現在も活躍中の映画監督ロマン・ポランスキーと、彼の監督作『吸血鬼』に出演した縁で1968年に結婚する。同年にはブルース・リー(『ワンス~』ではマイク・モーが演じる)監修のもとでアクションにトライした『サイレンサー第4弾/破壊部隊』が公開。ポランスキーとの第1子妊娠も分かり、私生活、女優としてのキャリアともに順分満帆だった。1969年8月9日までは…。
その日の深夜、シエロ・ドライブ10050番地にある2人の自宅の前に、4人の若い男女の影があった。スーザン・アトキンスら4人は、チャールズ・マンソンを信奉する「マンソン・ファミリー」。当時ポランスキー監督は仕事でロンドンに滞在中で、家には妊娠8ヵ月の妻シャロンと、夫婦の知人3人が滞在していた。
外の4人はまず、偶然通りかかった男性を家の前で銃殺し、見張り役として1人を残して敷地内に侵入。その後、家にいた夫婦の友人3人を次々に惨殺していった。
この凄惨な事件の犯人らは、その翌日にもメンバーを入れ替え、ロサンゼルスに住む資産家のラビアンカ夫妻を襲い、同様の手口で殺害。一連の事件は、あまりの凄惨さに大きな注目を集め、世界中に衝撃を与えた。 若者たちを凶行に走らせたチャールズ・マンソンとは、一体何者なのか。孤児院で育ったのちに犯罪に手を染め、人生の大半を服役していた彼は34歳のとき、そのカリスマ性と幻覚剤LSDを用い、若い男女を洗脳。自らをキリストの復活、悪魔とも称してカルト集団を築いていった。マンソンはシャロン殺害の実行犯と共に、殺人を教唆したとして逮捕され、終身刑が確定。2017年に獄中で死去した。
なぜ、シャロンが標的になったのか。動機は諸説ある。
いずれにせよ、犯行はシャロンとは全く関係ない身勝手なものだった。結婚したばかりの妻と胎児だったわが子を亡くしたポランスキーは、シャロンと自らの父の名を取ってポール・リチャードと名付け、妻と共に埋葬した。
憎むべきマンソンだが、皮肉なことにポップカルチャーにさまざまな影響を与えた。最もポピュラーなものの1つが、ロックバンドでそのボーカルの名前でもある「マリリン・マンソン」だろう。なお事件発生から50年の節目である今年は、ほかにも『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』が公開され、30日より『ハリウッド1969 シャロン・テートの亡霊』の1週間限定の公開も控える。
『ワンス~』では、シャロンを映画『スーサイド・スクワッド』(2016)のマーゴット・ロビーが演じる。カルト集団に殺害された悲劇の美人女優という文脈で描かれることの多いシャロンだが、本作では自身の出演作で笑い声をあげる観客を見てうれしそうな表情を見せるなど、等身大の20代女性として描かれる。(文:寺井多恵)
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は8月30日より全国公開。