「デビューして今まで一貫して念頭に置いているのが、『役を選ばない』こと」と話す女優・吉岡里帆が、映画『見えない目撃者』で挑んだのはまさに難役。目の見えないヒロインのなつめが、少女誘拐事件の真相に迫っていくサスペンスを、アクションありの体当たりで演じた。
ハードルの高い役柄に試練の連続となる撮影になったが、吉岡は忙しい時間の中でも、日ごろから「しっかり悩む時間」を大切にしているという。

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■階段を降りるシーンで監督から指示「足元を見ないで。もっと必死になって降りて」

 元警察官のなつめは、過去に自動車事故を起こし、目の見えなくなった女性。吉岡に求められることは多く、同年代の女性警察官や視覚障害者への取材、盲導犬パルとのアイマスクをしての歩行訓練など、クランクイン前の事前準備にも時間がかけられた。

 実際の撮影も難題の連続だった。後半、犯人に追われるなつめが地下鉄を逃げるシーンは1週間をかけて撮影。
パルと共に階段を駆け下りる、ヒヤリとさせられる場面もある。「目が見えないはずなのに、つい下を見てしまうことがあると、すぐに森(淳一)監督にバレるんです(笑)。『今、ちょっと下を見たよね。見ないで。もっと必死になって降りて』と。足元を一切見ない状態で、本当に転びそうになることもありましたが、そのくらいワンシーンワンシーンをこだわって撮影していました」。


 課題は多くとも、それを上回る魅力がなつめにはあったと振り返る。「演じたことのないジャンル、キャラクターでしたし、身体的に目が見えないというハンディはありますが、なつめは、それを跳ねのけるくらいの強い気持ちを持ち続けているんです」と、“強さ”に惹(ひ)かれた吉岡。「物事を簡単に諦めない、長い時間をかけて対峙していく気持ち」に共鳴したという。

■なだらかな波の中で静かに悩んだり、考えごとをしたり

 吉岡を惹きつけた“強さ”。自ら道を切り開いてきた吉岡本人からも、それは伝わってくる。女優になると決めた吉岡は大学時代、地元京都で学生演劇や自主映画に参加しながら、東京の養成所に通うため、夜行バスで京都と東京を行き来する日々を送る。
そして決意を胸に事務所の門をたたいた。そんな彼女の強さは、どこから生まれるのか。

 日ごろから大事にしているという、ひとりで静かに物事に向き合い、きっちり悩む時間が源かもしれない。

 「これで合っていたかな、とか。自分に疑問を持ってみたり、悩む時間を大切にしています。上がりすぎても下がりすぎてもバランスが悪いので、なだらかな波の中で静かに悩んだり、考えごとをしたりする。
悩みっぱなしだと仕事にならないので切り替えますが、でも、“ちゃんと”悩むようにしています」。■周囲のサポート「ひとりじゃない」

 大切にしているひとりで悩む時間。その一方で、「ひとりじゃないこと」が自身の強みだとも明かした。「周囲のサポートがあって、私はこのお仕事ができている。いつも私を支えてくれているスタッフさんたちが、本当に優しくておおらかで、面白い女性陣が多いんです。ひとりじゃないんだという気持ちがいつも私の中にあって、だからこそ強くいられるし、そこが自分の強みだと思います」。


 「付け焼刃ではできないことが多くて、アクションにしても目の動きひとつにしても、映画としてエンターテインメントに仕上げるために、監督やスタッフの皆さんと相談して、緻密に作り上げていった、手ごたえを感じる場でした。(26歳という)この年齢、タイミングで、今回新たな挑戦ができたのは大きな一歩」と、本作を振り返ると同時に、先を見据えた吉岡。

 スクリーンの中で正義感に突き動かされながら進むなつめの姿から、ひと時も目が離せない、吉岡の代表作に成り得る作品になった。(取材・文:望月ふみ 写真:高野広美)

 映画『見えない目撃者』は9月20日より全国公開。