NHK連続テレビ小説『エール』(NHK総合/毎週月曜~土曜8時ほか)で窪田正孝演じる主人公・裕一の父・古山三郎を演じる唐沢寿明。商売人であるものの才覚はないが、常に優しく柔らかく息子を見守る父親を演じ、視聴者の心を温かくしてくれている。
窪田とは数年前から交流があるという唐沢。そんな彼が「才能ある俳優」と語る窪田の魅力とは?

【写真】明日の『エール』第54回より…三郎の病状は深刻で…

――まずは、連続テレビ小説「エール」に出演が決まったときの思いからお聞かせください。

主演の窪田正孝くんとは、ドラマでの共演をきっかけに、数年前から交流があります。ですから今回は、父親役に限らず、どんな役でもオファーがあれば出演するつもりでした。ちょうど父子のような歳の差でもありますから、いわば父親のような目線で窪田くんを見ていますしね。彼には、もっともっと活躍してもらいたい。
そのために、力を貸せることがあればどんどん貸していきたいと思っているんです。

――役作りで意識したことは?

実は、初めて台本を読んだときに、パッと浮かんだ人物がいるんです。僕の知り合いで、三郎にとても雰囲気が似た人がいるんですよ。いつもニコニコしていて、場合によっては怒っ てしまいそうなことも、その人だとなぜか許してしまう。なんとかその人の雰囲気が出せないかなあと思いながら、演じました。

――三郎の話す福島ことばも魅力的です。
福島ことばでのせりふはいかがでしたか?

大変ですね~。毎回、自分でもかなり練習して撮影に臨んだのですが、お芝居を合わせるとうまくできない。ちょっと発音が違うだけで、全然違う言葉に聞こえるようで…。そういえば、先日『あさイチ』に出演する際に、冒頭で福島弁を使いたいと思って西田敏行さんにレクチャーをお願いしたんです。言いたい文面を西田さんに吹き込んでもらって、その音源を何度も何度も聞いて練習したのですが、それでも難しかったですね。もう僕は、福島弁の才能がないとしか言いようがないです(笑)。


――三郎にとって、裕一はどんな息子だと思われますか?

小さい頃から運動が苦手で、いじめられがちな子でしたから、三郎は裕一のことをずっと心配していたんじゃないでしょうか。弟の浩二の方がしっかりしているものだから、どうしても長男である裕一に目が行きがちだったのかなと。ですから、「裕一くんには音楽の才能がある」と藤堂先生に言われたときは本当にうれしかったと思います。最終的にそれが成功するかどうかは別にして、息子の夢を応援してやろうと素直に思ったはずです。

でも考えてみれば、三郎が商売下手だったということが、息子にとってプラスに働いたのかなとも思います。商売上手であれば、ずっと仕事ばかりしていて、子どものことは母親に任せっきりだったでしょう。
だからこそ三郎は、店をほっぽりだしてでも、裕一のことを真剣に考えられたんじゃないかな。――第 11 週「家族のうた」では、三郎が病に冒されていることが明らかになりますね。

親は子どもより先に老いていくもので、こればかりは順番ですから仕方ないですよね。ずっと生きてたら、死神博士みたいになっちゃうから(笑)。第11週は、三郎の息子たちへの思いが描かれる週でもあります。これまで、裕一ばかりをかわいがっていたように見えた三郎ですが、彼には彼なりの考えがあった。
それを息子たちにきちんと伝えるんです。それが、 三郎が父親として整理しておかないといけないと心に決めていたことだったんでしょうね。 浩二もずいぶん救われたんじゃないでしょうか。

――第11週で特に印象に残っているシーンは?

裕一と2人きりのシーンで、彼に「お前らのおかげでいい人生だった。ありがとうな」と告げる場面があるのですが、とても印象的でしたね。人間ってやっぱり、誰かのおかげでいい人生かそうでないかが決まってくるものですよね。
特に三郎は、周囲のみんなに助けられて生きてきた人。裕一だけでなく、まさ(菊池桃子)や浩二(佐久本宝)や店のみんなに支えられながら生きてきた人です。演じながら「みんながいたから幸せだった」と心から思える場面でしたし、三郎のように最後に幸せだったと言える人こそが真の幸せ者なんだと思いました。

――先ほど息子のようとおっしゃった窪田正孝さんですが、俳優としての魅力はどんな部分だと思われますか?

才能ある俳優だと思いますね。どの役でも、そのイメージをちゃんとつかんで、物語の世界に入っていける。作品ごとに違う印象を与えることができる俳優です。『エール』の裕一役は、ある意味彼の真骨頂じゃないかと思いますね。俳優にとって、“強さ”は出せても、裕一のような“弱さ”ってなかなか出せないんですよ。裕一役は、彼の中にある繊細さが存分に生かされた役だと思いますね。

――収録現場での窪田さんをどうご覧になっていますか?

頑張ってますよ。主役には主役なりの何かが必要なんです。覚悟も含めて、共演者やスタッフを引き込んでいかないといけない。何で引き込むかは人それぞれですけどね。現場にいると、「なんとか引っ張っていこう」という彼の座長としての心意気が伝わってきます。

彼にアドバイス? ないですよ(笑)。違う人間だし、いくら先輩でもこちらからわざわざ助言するなんてことはありません。でも、逆にじーっと僕のことを見ている気配は感じるかな。僕がスタッフたちとバカ話しているのをじーっと見てる。真似しようとしているのかもね。

――唐沢さんご自身が、音楽からエールをもらったということはありますか?

僕、家出少年だったんですよ。若い頃は、いろんな人の家を泊まり歩いていました。そんな頃によく聞いていたのが、アメリカのバンド「テイスト・オブ・ハニー」による「上を向いて歩こう」のカバー曲(「スキヤキ’81」)。底抜けに明るい坂本九さんの曲と違って、曲調がとてもしっとりしているんです。聴きながら「上を向かなきゃダメだな」と思わされたことが何度もありました。この曲にはずいぶん救われました。

――最後に視聴者の方にメッセージをお願いします。

このドラマは、音楽でエールを届けようとする夫婦の物語ですが、ぜひとも視聴者の皆さんの力を貸していただきたいと思いますね。『エール』は、皆さんの“エール”で成り立っております!(笑)どうぞよろしくお願いいたします。