次々と日本上陸を果たす最新ホラー映画から選りすぐりの注目作をピックアップ。独創的でスリリング、おもしろコワイ、観て損なしの「この1本」を独断と偏見でチョイスして、関連度の高い「おすすめ作品」とあわせてご紹介! 今回はその名もズバリ『アオラレ』。

世間を騒がす「あおり運転」男を名優ラッセル・クロウが巨体を揺らし怪演するノンストップ・アクションスリラーだ。

【写真】初公開カットも! ラッセル・クロウがにらむ、アオる、襲う『アオラレ』フォトギャラリー

 シングルマザーのレイチェル(カレン・ピストリアス)は、美容師の訪問仕事で15歳の息子カイルを育てながら、弟とその恋人も同居する家をなんとか維持して暮らしている。しかし、綱渡りの日々に疲れは限界。今朝も寝坊し、急いで息子を学校に送るため年季の入った愛車を走らせるが、フリーウェイは大渋滞。さらに、顧客との約束にも遅れ、電話でクビを言い渡されてしまう。散々な状況に半ギレになるレイチェルだが、息子の慰めでなんとか気を取り直して下道へ。だが今度は、信号が青になっても目の前のピックアップトラックが発進しない…。

 ブー! ブー! ブー! 思わず鳴らしたイラ立ちのクラクション。それが、彼女の日常を一変させる。トラックを追い抜いて先を急ぐが、運悪く次の信号は赤。音もなく車を横に寄せてきた運転席の男(ラッセル・クロウ)は、窓越しに「あんなにクラクションを鳴らさなくてもいいじゃないか。マナーが悪い。
謝罪してくれ」と頼む。だが、レイチェルはきちんと謝れない。そして、果てしないアオラレ地獄が幕を開ける。

 「この映画には出演しない」。暗すぎるキャラクターに、脚本を読んだラッセル・クロウは直感でこう漏らしたそうだが、その瞬間「いつからこういう作品を拒むようになったのか、と思った。僕は、まさにこういう難しい役柄をいつも求めている」と演技魂に火をつけ、オファーを引き受けたという。

 危険なあおり運転に始まり、執拗(しつよう)な脅迫電話でヒロインを泣かせたうえ、車を降りても猪突猛進。名無しの男は周囲の目などまったく気にせず、その魔の手は無償で相談に乗る離婚弁護士やレイチェルの身内にまで迫っていく。常識や体面など無用。守るべき存在もない。自暴自棄に陥った暴力巨漢の制御不能な恐ろしさ。そんな好感度をかなぐり捨てた「攻めの悪役」にあえて挑んだオスカー俳優の大熱演は必見だ。


 どうにも謝れない女と、決して許さない男という最悪の巡り合わせが招く、命がけのデッドヒート。離婚調停中のレイチェルは勝手な要望を押しつける元夫にくすぶり続ける怒りがある。実は男も、不本意に仕事を失くし妻と別れ、やり場のない怒りで身を滅ぼした人間だ。まるで裏返しの境遇に立つ2人が互いを絶対に許せないのは、どちらも無意識に「被害者」の感覚があるから。世の中には調子よく生きているやつも大勢いるのに、なぜ、私だけ、俺だけが理不尽に苦しまなくてはならないのか。

 それは「自分が悪いからでしょ」と、状況を冷静に眺めるレイチェルの息子は忠告する。人生の苦境にアオラレて、見知らぬ相手に怒りを転嫁する大人たちに対し、リアルな身の丈を心得た若者はずっと賢く、この世界を生きている。『アオラレ』は街角の路上から現代の恐怖に鋭く切り込む、アツくてイタい、エキサイティングな快作エンタテインメントだ。

 映画『アオラレ』は5月28日より全国公開。

【アオッてんじゃねえ! 歴代アオラレ映画を振り返る「アオラレ映画図鑑」】

 誰もが身に覚えのある不安、心当たりがある過ちを積み重ね、共感度の高いサスペンス展開へと観客を巻き込む「アオラレ映画」を大特集。動く密室である車内の安心感から生まれる一瞬の油断が、予期せぬトラブルを招く。路上は危険がいっぱいだ!

★『激突!』(1971)
 ノロノロ運転のタンクローリーを追い越した乗用車のドライバーを襲う、極限のアオラレ体験。
無人の一本道、顔を見せない狂気の運転手、不条理な設定と小気味よい語り口。シンプルにして王道。スティーヴン・スピルバーグ監督が当時25歳で撮りあげた大傑作。

★『悪魔の追跡』(1975)
 テキサス郊外をキャンピングカーで旅する2組の夫婦。だが、深夜の荒地で悪魔崇拝者たちの生贄(いけにえ)の儀式を目撃したことで、気ままな休暇は一転、決死の逃走劇に。行く先々で出会う人々が全員「悪魔派」に見えてくる展開にゾクッと戦慄。

★『ザ・カー』(1977)
 突然、のどかな田舎町に出現した黒塗りの悪魔の車。サイクリングの男女を跳ね、子どもを追い回し、自ら横転して警察車両を押し潰す。侮辱の言葉であおった女教師の自宅に突っ込み、彼女をひき殺す豪快なショックシーンも登場。

★『ロードゲーム』(1981)
 オーストラリアの広大な原野を飛ばす長距離トラック運転手と、女性ばかりを狙う連続バラバラ殺人鬼の知恵比べの死闘。スリラーの神様、アルフレッド・ヒッチコックを崇拝する鬼才リチャード・フランクリンの代表作。

★『クリスティーン』(1983)
 さえない男子高校生がガレージセールで見つけた、廃車寸前のクラシックカー。
入魂の修理で新車同然に甦ったその車は、嫉妬深い魔性の怪物だった。少年と自分を傷つけた相手をどこまでも追い、車体をボロボロにしてひき殺す執念が恐ろしい。

★『クジョー』(1983)
 町外れの自動車工場で飼われているセントバーナードが狂犬病に感染。真夏の炎天下、敷地内で故障した車に取り残された母と幼い少年を襲う。病に苦しむ大型犬の虚(うつ)ろな目と、『アオラレ』のラッセル・クロウの捨て鉢な表情はどこか似ている?

★『ヒッチャー』(1986)
 土砂降りの夜道で謎の男を車に乗せた青年。次第に病的な素顔をのぞかせる男を車外に叩きだすが、それは恐怖の序章でしかなかった。ゆがんだほほ笑みを浮かべ、青年につきまとう粘着殺人鬼=ルトガー・ハウアーの鬼畜ぶりは忘れ難い。

★『ブレーキ・ダウン』(1997)
 長距離ドライブ中に砂漠で車が故障、立ち往生した夫婦。運良く通りがかったトラックに乗り、修理屋を呼びに行った妻はそのまま失踪。孤立無援の見知らぬ土地で、取り残された夫の執念の追跡が始まる。90年代版『激突!』と評価も高い一本。

★『ロードキラー』(2001)
 こちらは『激突!』の青春スリラー版。
自動車事故で急逝した人気俳優ポール・ウォーカーふんする青年とその兄が、帰省ドライブの退屈しのぎにからかったトラック運転手に延々とつきまとわれる。脚本・製作はハリウッドのヒットメイカー、J・J・エイブラムス。

★『ジーパーズ・クリーパーズ』(2001)
 春休み休暇で実家に戻る道中、騒々しい警笛を鳴らす不気味なトラックにアオラレた姉弟。車を運転していたのはなんと、人食いモンスターだった。どこに逃げても追いかけてくるあおり怪人の恐怖を、都市伝説の謎と絡めたユニークな一篇。

★『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)
 カーアクションの名作『バニシング・ポイント』を愛する映画のスタントウーマンと、改造車で殺人を繰り返すサイコ男の一騎打ち! ボンネットに女性を乗せたまま、猛スピードで展開するアオラレ追跡バトルは血がたぎる興奮度マックスの名場面。

★『ロード・インフェルノ』(2019)
 渋滞を招く低速走行車をついあおったら、相手の運転手は超サイコパス! 害虫駆除薬の噴霧器を凶器にする異常者につけ狙われた一家を描く、オランダ製スリラー。ハリウッド映画とはひと味違う、辛辣(しんらつ)な風刺とパンチの利いた過激な暴力描写がコワい。

(文:山崎圭司)

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