チャーミングな佇まいに加えて、時に狂気をも感じさせる芝居で“怪演女優”の異名をほしいままにする女優の松本まりか。女優デビューから20年を経てブレイクし、5月には連続ドラマ初主演を果たすなど、いまや出演作が相次ぐ“最旬女優”でもある。
【写真】キュートな笑顔から妖しげなまなざしまで 松本まりか、撮り下ろしショット
◆“無敵状態”のスカウトを経て15歳で女優デビュー
1984年、東京都・中野区で生まれた松本。小学校4年生まで暗い性格だったそうだが、そんな彼女も小学5年生の頃に空手を始めると、メキメキと頭角をあらわし黒帯を取得。性格の明るい女の子に成長した。地元の公立中学に進学すると、そのかわいさから街でスカウトされる機会も増えたそうで、昨年出演したバラエティー番組の中で松本は中学生時代を振り返り「あの頃はホントに無敵状態で、すごかったんですよ、歩くだけで(人が)ハッと振り返る」と回想。1日で2ケタにものぼるスカウトにあったことを明かしている。
そんな“無敵状態”のかわいさを誇った松本は、スカウトを経て2000年に放送されたドラマ『六番目の小夜子』(NHK)で女優デビュー。本作で松本は、鈴木杏ふんする主人公の親友・雅子を演じた。ドラマ終了後も大河ドラマ『葵 徳川三代』(NHK)に出演するなど女優としてのキャリアを積みつつ、ファッション誌のレギュラーモデルにも挑戦。さらに彼女は、その印象的な“声”を生かした声優業にも進出し、アニメ『蒼穹のファフナー』シリーズの遠見真矢役やゲーム『ファイナルファンタジーX』シリーズのリュック役で注目を集めることになる。
◆『ホリデイラブ』で主演を食う存在感 個性派女優としてブレイク
女優としてテレビドラマや映画に出演し、声優としてアニメやゲーム作品に参加しキャリアを重ねる松本だったが、誰もが“代表作”と認める作品にはなかなか巡り会えずにいた。
そんな彼女に転機が訪れたのは、2018年1月期に放送された仲里依紗主演のドラマ『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)への出演だ。
里奈は卑劣な手を使って純平の妻・杏寿が不倫をするように仕向けたり、ネットを駆使して杏寿を追いつめたりと裏工作を展開。終盤に至っては純平と杏寿の娘に接触しうつろな笑みを浮かべて「未来のママよぉ…未来のママ…」とつぶやくなどその行動はエスカレート。最終回のクライマックスでは、里奈が純平の会社へ乗り込み大声で自身との不倫を暴露。警備員の制止を半狂乱で振り切り、走り出したところで車に追突されるという壮絶な顛末(てんまつ)を迎えることに…。松本は愛と幸せを渇望する里奈の一挙一動を、時にはかなげに、時に大胆に体現。本作での狂気が宿ったような彼女の熱演は、視聴者に“女優・松本まりか”の名を強烈に印象付けた。
その後にゲストとして第9話と最終話に出演した『健康で文化的な最低限度の生活』(カンテレ・フジテレビ系)ではお金に執着する毒親役を、そして山口紗弥加と2人1役を演じたことでも話題になった『ブラックスキャンダル』(読売テレビ・日本テレビ系)では、根も葉もない不倫スキャンダルをでっち上げられたことから復讐(ふくしゅう)の鬼と化す女優を熱演。
2019年以降も次々と話題作に出演。ディーン・フジオカ主演の月9ドラマ『シャーロック』(フジテレビ系)では、記念すべき第1話のゲストとして悪女役を好演。さらに米倉涼子主演の『ドクターX~外科医・大門未知子~』では、その美ぼうで男性医師を手玉にとる外科医を演じるなど、この時期、松本は1話だけのゲスト出演でも視聴者の心にしっかり爪痕を残し、“松本まりか”という女優の唯一無二の存在感を届けることに成功している。
2020年以降も『竜の道 二つの顔の復讐者』(カンテレ・フジテレビ系)や『教場II』(フジテレビ系)に出演。
役者としての期待と評価の高まりに比例するように、松本の姿をドラマや映画以外の場所で見る機会も急増している。トーク番組では自身の過去の恋愛やプライベートについても赤裸々に語るサービス精神を発揮、“あざとかわいい”の代表とも言える存在となった。また大型音楽特番ではテレサ・テンの「愛人」をカバーし歌声も披露、帽子ブラの表紙が話題を集めた『松本まりか写真集 MM』(マガジンハウス)を発売するなど挑戦を続けている。2021年に入ると『情熱大陸』(MBS・TBS系)の放送やテレビCMへの出演、さらに『めざましテレビ』(フジテレビ系)では、4月のマンスリーエンタメプレゼンターに就任するなど勢いは増すばかりだ。
現在松本は、大地真央が主演を務める『最高のオバハン 中島ハルコ』(東海テレビ・フジテレビ系/毎週土曜23時40分)にレギュラー出演。10年ものの不倫を抱えるダメンズ女子・菊池いづみを演じ、ハルコ役の大地とコミカルな掛け合いを披露するなど、コメディエンヌとしての演技に磨きをかけている。
そんな松本は次回作となる5月14日スタートの『WOWOWオリジナルドラマ 向こうの果て』(WOWOWプライム/毎週金曜23時)で満を持して連続ドラマ初主演を務めることに。このドラマで松本が演じるのは、幼なじみを殺害した容疑で逮捕される池松律子。律子に関わってきた複数の男たちの証言から、彼女の数奇な人生がひも解かれていく。夜叉のような女、娼婦のような女、嘘つきな女、柔らかな女、太陽のような女…と“いくつもの素顔”をもつ女に挑むにあたり、松本は「彼女のことを理解するのは前途多難だなと思っています」とコメント。
これまで数多くの作品で変幻自在な魅力を見せてくれた松本。ダメンズ女子とファムファタールを同時期に演じ分けるなど、女優として新たなステージへ足を踏み入れる中、初の主演作でどんな進化を遂げるのか期待が尽きない。(文:スズキヒロシ)