山田風太郎の人気伝奇小説を原作に、上川隆也主演で上演される舞台『魔界転生』。2018年の初演時には10万人の動員を記録し、満を持して再演される本作で、黄泉の世界からよみがえった淀殿役を続投する女優・浅野ゆう子

驚くことに昨年60歳を迎えたという彼女に、デビューから47年間でターニングポイントとなった作品、今後目指す女優像、女性像などを聞いた。

【写真】浅野ゆう子、変わらない美しさ!

★徳川、豊臣――相対する双極の女性トップを演じることは「役者冥利に尽きる」

 劇作家・マキノノゾミ脚本、堤幸彦演出の本作は、天草四郎によってよみがえらされた宮本武蔵ら剣豪に、上川演じる柳生十兵衛が果敢に立ち向かう姿を描くアクション・エンターテインメント時代劇。再演ではド派手なアクション、変幻自在なフライング、演劇と映像の融合をテーマに、LEDにより映像効果を駆使し、令和版の新しい『魔界転生』にブラッシュアップされる。

 前回に引き続いての出演となる浅野は「本当にびっくりするほどたくさんのお客様に楽しんでいただいた作品でした。再演すると聞いた時には“そうだよね!”という納得の気持ちしかありませんでした。そこに再び淀殿としてお声をかけていただき、この作品と出会えて本当によかったと、感謝と大きな幸せを感じております」と喜びを語る。


 マキノ脚本、堤演出という座組は2016年上演の舞台『真田十勇士』、そして『魔界転生』の初演に続いて今回で三度目。「『真田十勇士』で生まれた淀殿が、『魔界転生』でお二人にさらに大きく育てていただき、私にとってかけがえのない役を作っていただいたと思っています。『真田十勇士』の淀殿が、徳川に怨念をもって魔物に転生したという設定なのですが、淀君様には失礼にあたるかもしれませんが、私にとっての淀殿は、実在の人物というよりも“魔物”という存在になっています。前作の『真田十勇士』で演じさせていただいたことを踏まえて、あれこれと考えて、イメージを膨らませて、魔物の淀殿は私の中でどんどん大きくなっちゃっているんです。そんな淀殿を演じさせていただけることを、私自身が一番楽しみにしているかもしれません」と思い入れも十分。

 淀殿と自身の共通点を尋ねると、「淀殿にとっては息子の豊臣秀頼が自分の命より大切な存在。
私には子どもがおりませんのでそこまでの愛というものが実感として分からない部分もあるのですが、淀殿は表裏のない方、自分の感情をストレートに言葉にする女性。意外と私も心の声がポロッと出ちゃうタイプなので、通じる部分と言われるとそういうところかもしれません」と笑う。

 浅野といえば、『大奥』の大奥総取締・瀧山や今回の淀殿のような男勝りで凛(りん)とした、一見怖いように見えるが実は寂しさや優しさを秘めた役どころの印象が強く残る。「『大奥』では、映像と舞台と合わせて10年、瀧山という役を演じさせていただきました。凛とした、だけど切ない女性で、本当に好きな役柄で愛していました。そこに通じる、淀殿も女性としてトップに立ち、若くして不運な死を遂げられましたが、非常に威厳のある凛とした強い女性というイメージ。
徳川と豊臣という、相対する双極のトップに立つ女性を演じさせていただけるというのは役者冥利(みょうり)に尽きますね。本当にありがたいです。

 それに偉いポジションに就く人の役って、普段体験できないことなのですが、みんなに“ははーっ”て平伏してもらえて気持ちのいいものなんですよ(笑)。だから皆さんにその気にさせてもらって、生き生きと演じているように見えるのかもしれません。息子を愛する気持ちを軸にしつつも、淀殿は人ではなく魔物ですから、最大限デフォルトして演じることができますのですごく楽しいです」。★コロナ禍で迎えた還暦 47年の芸能生活で迎えたターニングポイントとは?

 「少々照れくさくて大きな声では言えませんが、昨年なんと還暦を迎えさせていただきました。
数年前から“還暦”に対する特別な思いが自分の中にはあったのですが、コロナ禍で意外とさらっと迎えちゃいました。人生というものと改めて向き合い、生きていくことを前向きに考える時間をもらった1年だったかなと思います。神戸におります高齢の母がもし感染したら会えないのだろうか、もし自分が感染したら60過ぎは命の危険に直結する可能性も高いのか、と母のこと、家族のこと、仕事仲間のこと、自分のこと…本当に丁寧に生きていくということの難しさを考えさせられる時間だったのかなと感じています」。

 1974年のデビューから47年。この間、大きなターニングポイントはいくつも迎えた。

 「振り返ってみて初めて『あぁ、あの時が』と、気付くのかなぁと。
トレンディドラマに出させていただいたことは大きな転機でした。あのトレンディドラマがなければ、今こうしてお話を聞いていただくこともなかったでしょうし、私はなんて幸運な人間なんだろう、ラッキーだったなと思っております。

 1995年公開の映画『藏』という作品も心に残る作品でした。そこで“母”のような立場の役を演じる機会をいただき、自分の中で少し大人に転換できたのかなという思いがあります。そして『大奥』では、悪役、ヒールというものがこんなにも楽しいものなんだということを経験させていただきました。これから私は悪役もどんどんやっていきたいなという気持ちにさせていただいた作品でした。
大奥総取締・瀧山は悪役だと思っていたら、多くの女性からすごく好きというお声をいただき、自分の中では最初“?”マークだったのですが、瀧山は徳川命とお家第一に考え一生懸命に生きている切ない女性でしたので、そこを心で感じていただけた結果なのかと逆に教えていただけた作品でもありました」と振り返る。

★女優として、女性として夢見る生き方は?

 20代、30代、40代と、多くの女性から憧れられる存在として魅力を増してきた浅野だが、この先の人生、どのような輝きを目指しているのだろう?

 「女性として遅まきながら配偶者を持つことができました。一緒に生きていくということの大切さを初めて教えられた気がしています。本当に2人の時間を大切にしています。いつ何が起こるか分からないという、刹那的ではありますけどそういう時代になってきていますので、毎日を大切に、ささいなことでも笑いあえる楽しい時間を生きていかなくてはと思っています。

 女優としましては、40代になってからと遅めのスタートかもしれませんが、1年に1本は舞台に立たせていただきたいと考え、仕事を組んでもらっています。1つの役を時間をかけて演じていくということは映像ではなかなかできないことです。なので、お稽古を重ね時間をかけて作り上げていけるというのは本当に勉強になるんです。年齢関係なくお勉強させていただける場所だと思っていますので、役者を続けられる間は舞台を続けさせていただきたいと思っています。

 そんな中、2019年に『細雪』という文芸作品に出演させていただきました。そこで、素晴らしい純文学の王道の作品はずっと受け継いでいかなければいけないという気持ちを強く持ちました。コロナ禍での新しい生活様式になろうと、いつの日か、王道の純文学をお届けできる場に立たせていただけるのであれば、女優・浅野ゆう子にとってそんな幸せなことはないと、夢のように思っております」。(取材・文:編集部 写真:高野広美)

 舞台『魔界転生』は、東京・明治座にて5月18日~28日上演。※詳細は舞台公式HP参照。