ディズニーの名作アニメを実写化し、日本で2019年の実写映画No.1ヒットを記録した映画『アラジン』(2019)が、金曜ロードショーにて本編ノーカットでテレビ初放送される。貧しくも清らかな心を持つ青年アラジンと、自由を求める王女ジャスミンの、身分違いの恋を描く本作は、名曲の数々とともに、異国情緒溢れる壮麗なコスチュームも大きな見どころのひとつ。
【写真】ジャスミンの色鮮やかなドレスの数々 『アラジン』壮麗な衣装の世界
衣装デザインを担当したのはマイケル・ウィルキンソン。これまで、ザック・スナイダー監督やデヴィッド・O・ラッセル監督の作品等で手腕を振るい、『アメリカン・ハッスル』(2013)ではアカデミー賞や英国アカデミー賞にノミネート。衣装デザイナー組合賞には通算7度候補入りを果たしている。本作の監督ガイ・リッチーとは、現在日本で公開中の『ジェントルメン』でも組んでいる。
本作の舞台となる架空の王国アグラバーは、東洋と西洋を結ぶシルクロード上に位置すると設定された。そのためウィルキンソンは、元となった「千夜一夜物語」が書かれた中東地域のみならず、アフリカやトルコ、パキスタンにまで範囲を広げ、衣料やアート、彫刻のリサーチを重ねたという。
◆アラジンとジャスミン:運命の出会いのシーン
アラジンとジャスミンが出会う市場のシーンは、世界中に愛される名作アニメの実写化が、間違いでなかったと印象付けた最初の場面といえよう。市民の暮らしを自分の目で見ようとお忍びで訪れた王女ジャスミンは、ナチュラル素材のドレスの上に、柔らかなベールを重ねて体を覆う、アラビア風のスタイル。ウィルキンソンは、全編を通してジャスミンにターコイズブルーを用いているが、ここでもターコイズ色の縁取りが庶民との違いを印象付けた。
一方のアラジンの衣装には、現代的な新鮮さを出すために、若者らしいシルエットを加えたそう。トレードマークのベストにはフードを付け、パンツをサルエル風にしたことで、アニメのイメージを崩さずに、古風でありつつモダンなスタイルを作ることに成功した。
◆ジャスミンと原色のドレスの数々
ウィルキンソンは衣装デザインで、ジャスミンの持つ強さと知性、そして自立心を表現したかったという。鮮やかで強いカラーの数々と大胆なデザインは、彼女の自信と率直な性格を反映させた。シルエットにもこだわり、公務の場ではかっちりと、プライベートではゆったりとしたデザインを採用した。
市場から急いで戻り、父と共に求婚者の前に姿を表したジャスミンが着るのは、長いトレーンを引くフューシャピンクのドレス。市場のシーンとは異なり、宮殿のスタイルは、艶やかなシルク地をベースに、ペイズリー模様やゴールド刺しゅう、ビーズが施された瀟洒(しょうしゃ)なもの。ジャスミンの母が異国の出身であることから、南アジアのテイストを取り入れており、ほかのキャラクターとは違う印象をもたらした。スカートのスリットからのぞくターコイズ色のパンツは、彼女の持つ強い意志を表し、歩くたびに見せつける。この組み合わせは作中何度か登場する。
そして、女性だからともう黙ってはいないと、高らかに「スピーチレス~心の声」を歌い上げるシーンでは、高貴でエレガントな色、マゼンタのドレスを着用。ここでも、黄金刺しゅうとターコイズ色がアクセントにプラスされ、足元はバルーンパンツのデザイン。ちなみにディズニープリンセスで初めてパンツを着用したのは、1992年のアニメ版でのジャスミンである。◆陽気なランプの精ジーニー
アラジンの恋の橋渡しをするのは、千年もの間、魔法のランプの中に閉じ込められていた魔人ジーニー。
◆豪華絢爛! まるでカラーの洪水!「プリンス・アリの大行進」
ジーニーの魔法でアリ王子に変身したアラジンが、ジャスミンのいる宮殿へ華々しくパレードをする「プリンス・アリの大行進」は、本作の見せ場の一つ。ジーニーの歌声にのせて花びらが舞い、大勢の家臣とともにクジャクやダチョウなど珍しい動物たちが一同に行進する。画面の隅から隅まで色であふれかえる、豪華絢爛(けんらん)なシーンだ。この場面のために、200人以上のエキストラとダンサー250人、そして7台のカメラが用意され、5日以上かけて撮影された。エキストラ1人1人に異なるデザインの衣装が用意され、そのために世界中から生地が集められた。着衣のみならず頭飾りからジュエリー、靴まで、全てが衣装チームによって用意された。
巨大な象が引く豪華な山車に乗って登場したアリ王子は、アイボリー地にゴールド刺しゅうが施された衣装を幾重にも重ね、大きなブローチと派手な羽飾りのついたオーバーサイズのターバン、ゴールドのブーツといった過剰なスタイル。これは、良く見せようと自分自身を隠し、飾り立てたアラジンの内面を表していて、この後本来の自分を見せるようになるにつれ、少しずつ衣装も脱いでいく。
そんなアリ王子一行を、ジャスミンは宮廷スタイルの中でも特にフォーマルなデザインのドレスで迎える。
ジャスミンの父サルタンの衣装に求められたのは、王族らしさ。そのためアニメ版とは異なり、ゴールドやオレンジ、グリーンと色を重ねたスタイルに仕上げた。ヘッドドレスの羽とエレガントな金ボタン、個性的なベルトは、イスタンブールのグランドバザールで手に入れたものだそう。
本作の悪役ジャファーの衣装には、アグラバーを軍事国家にしたいという彼の野望を踏まえ、ミリタリーモチーフが隠されている。カラーは黒と赤を基調とし、甲冑のようなデザインもみられる。また、彼の持つ杖(つえ)は物語上重要なアイテムだが、こちらは小道具のグレイム・パーディが担当。リッチー監督の希望で、本作では小道具の多くが特注で作られたが、中でもこの杖には特に完成度が求められたという。撮影の段階を踏むために複数作られ、壊されるためのものにまで彫金が施された。
これらの衣装を手掛けたウィルキンソンは、「アニメーションを実写化する際は、より詳細な部分をイメージしなければいけません。衣装デザインは、キャラクターたちに深みを加え、彼らの背景や内面を伝える道具になります」と語る。