抜群の歌唱力と表現力で、宝塚歌劇の歴史に名を刻んだ元雪組トップスターの望海風斗。4月の退団から8ヵ月が経ち、いよいよ『INTO THE WOODS』で卒業後初ミュージカルに挑む。
【写真】望海風斗、宝塚退団から8ヵ月 凛々(りり)しいまなざしは健在
“歌の名手”望海でさえソンドハイムの名曲には苦戦
本作は、『赤ずきん』『シンデレラ』『ジャックと豆の木』『塔の上のラプンツェル』など、誰もが知る童話の登場人物たちが同時に存在する世界で、それぞれの有名なおとぎ話をなぞりながら、物語が交錯するミュージカル。クラシック音楽やオペラにも造詣が深い熊林弘高が演出を務める。原作は、先日惜しまれながら逝去したスティーヴン・ソンドハイムが作曲・作詞を手掛け、ジェームズ・ラパインが脚本を担当した1987年初演の同名ブロードウェイミュージカルだ。出演には、古川琴音、羽野晶紀、福士誠治ら個性と実力を兼ね備えたキャストが名を連ねる。
望海が演じるのは魔女役。長年子どもを授からないパン屋の夫婦(渡辺大知、瀧内公美)に呪いをかけ、おとぎ話の世界へと導くという本作のキーパーソンを務める。
――退団後初のミュージカル出演がこの『INTO THE WOODS』に決まった時の感想を教えてください。
望海:1作目に何をするかっていうのはすごく大事だなと思っていたんですけど、この作品と魔女という役が、自分の中で大きなチャレンジになるだろうなと思いました。宝塚で男役を通して自分が追求してきたことや、やってきたことがつなげられるような作品や役ではないかと感じたので、チャレンジしようと思いました。
出演が決まって映画や映像を拝見すると難しい作品で、ブロードウェイミュージカルだけど、ブロードウェイミュージカルっぽくないと言いますか…。
――インスタグラムで歌稽古に難しさを感じていると書かれてましたが、望海さんでも苦戦するなんて!と驚きでした。
望海:最初は音を的確につなげていくことが難しかったです。でも、英語の言葉と歌詞を伝えるためにあのメロディーが作られていると思うんですが、日本語に変えて、そのメロディーを使って言葉をしっかり自分の中に落として表現するというその過程が一番難しかったですね。曲だけでドラマが完成するわけではなく、言葉とかその中に込められている思いみたいなものを伝えるためにその曲が出来上がっているので、歌を歌うという感覚で挑むことができないことが難しいです。やっぱりお芝居の延長なんだなって思います。
音階も予想だにしない音が来たりするので難しかったです。次はこの音が来たら気持ちいいな、というのとは違うところから音が出てきたりするので、慣れるまで時間がかかりました。でも、慣れたら意外と体に染み込むといいますか。ちゃんと気持ちと音楽がうまく連動しているんだなって感じますし、音楽がうまく気持ちを引き出してくれたりもするので…。(演出の)熊林さんからは音をちゃんと歌うというよりも、楽譜が見えないように、最後はセリフを言っているかのようにその曲が完成することを目指したいと言われています。
きれいに歌おうとしない――役の言葉として音楽も利用して表現
――役として歌う上で気を付けていることはなんでしょうか。
望海:ただきれいに歌おうとしないことでしょうか…。男役時代もそうだったのですが、ちゃんと歌おうと思うと音楽っていうものだけが先走ってしまうかなと思うので、役として歌うんだったらきちんと役の言葉として、音楽も利用して表現しなきゃいけないと思っています。
――今回、久しぶりのミュージカル出演となりますが、コンサートとミュージカルでは心境的には違いますか?
望海:コンサートの時のほうが、新しいことに挑戦して自分自身が男役であったところから脱皮していく感覚が強かったです。『INTO~』のほうが、今のありのままの自分でないと挑めない感じです。女性らしくしなきゃということをまったく考えずにやっているので、コンサートの時より、宝塚の男役に中身は近いんじゃないかなと思います。
――さまざまなバックボーンを持ったキャストが顔をそろえてますが、稽古の雰囲気はいかがでしょう。
望海:皆さん、いろんなフィールドからいらっしゃっているので、それぞれが持ち寄ってくるもので、何が起こるか分からないというのがすごく新鮮ですね。何をしても受け入れてくださいますし、皆さんお芝居がすごく好きな方ばかりが集まっていらっしゃるんだろうなって。稽古場に来て楽しくいろんなことを挑戦されるというか、その時生まれたことを惜しみなく出すというか。毎日刺激をもらっています。
――演じられる魔女役のビジュアルが解禁された時には、大きな反響が起こりました。
望海:私はストーリーの中でどこにも属さないこともあり、1人で撮影させてもらいどういう絵面になるか分からなかったんですけど、その場で、“魔女をやるっていうよりも望海さんでいてくれて大丈夫です”と熊林さんにおっしゃっていただいたので、楽しみながら撮影させてもらいました。出来上がりを見て、こういう構図になってたんだなって。
――演出の熊林さんから掛けられた言葉で印象に残っているものはありますか?
望海:発せられる言葉がすべて新鮮。まずは魔女っていうものを演じようとしないということ。魔女だからこうしなきゃとか、魔女っぽくしなきゃということじゃなく、まずは自分をさらけ出すことを一番やってほしいと言われました。
この経験ってなかなかさせてもらえない経験だと思うんですよね。ミュージカルと言っても、芝居、音楽劇だっておっしゃっていて。自分の芝居というものの初心と言いますか、最初のスタート地点で熊林さんと関わらせていただいて、この魔女という役を通して毎日いろんな刺激をもらって、勉強させてもらってというのが、お稽古場からすべて財産だなと感じています。今後いろんな出会うものの基盤になると思いますし、毎日いろんな学びがあるので、この出会いには本当に感謝しています。
充実した退団後の8ヵ月 “自分”でいる時間に戸惑いも
――4月に宝塚を退団されて、すぐに『エリザベート TAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』でまさかのトート閣下として降臨。その後、コンサートツアー『SPERO』があり、早霧せいなさんのコンサートへのゲスト出演と、あっという間に駆け抜けられた印象があります。
望海:本当に8ヵ月しか経ってないんだっていう感じもあります。
――プライベートも含めて毎日充実されている感じですね。
望海:宝塚の時はオンとオフの切り替えがなかったんだなって辞めてから気付かされましたね。男役であるということが、常にありました。自分自身でいる時間って何したらいいんだろう?ということを悩むことってないよねって(笑)。自分でいる時間何しよう? 今この時間余ってるけどどうしたらいいんだろう?みたいなこともあるんです。
退団後に英会話を始めたんです! ずっとやりたかったんですが、オンラインでやることに抵抗があったんですよね。やっぱり面と向かってちゃんと教えてもらいたいですし、じゃないと身に付かないかなと思ったりして。でも、コロナもありますしそうこう言ってられないな、まずはオンラインで初めてみよう!と踏み出しました。
――インスタグラムも始められましたね。
望海:全然使いこなせてないんですけど(苦笑)。
――インスタで書かれていた、早霧さんからプレゼントされた稽古着も活躍中ですか?
望海:割れてない稽古着ですね(笑)。活躍してましたけど、今はニーパッドを着けていっぱい動き回るお稽古になったので、大事にしまってあります(笑)。
――2022年は、この作品(日生劇場)に始まり、『next to normal』(シアタークリエ)、『ガイズ&ドールズ』(帝国劇場)と出演作が続々。日比谷の劇場完全制覇でいろいろな望海さんに出会えることが楽しみです。
望海:いろいろな出会いがあると思うので、1個1個を大切にするような1年、視野を広げるような1年にしたいと思っています。歌もずっと勉強していきたいという思いがありますね。
こういう状況になって、劇場に来てくださいってあまり軽く言えなくなってしまったけど、やっぱりマスクしててもお顔が見えて、拍手とかいろんな思いを返してくれる空間というのは貴重であり、必要不可欠な空間だなって感じています。今までの状況がどれだけありがたかったんだろうって気付かせてももらいました。
私は、人に向かって、対“ひと”で何かをすることがすごく好きなんです。舞台で歌うことが一番自分にとって好きなことなんだろうなと改めて実感していますし、来年はミュージカルにもたくさん出させていただくので、すごく楽しみにしています。
ミュージカル『INTO THE WOODS ‐イントゥ・ザ・ウッズ‐』は、東京・日生劇場にて2022年1月11~31日、大阪・梅田芸術劇場メインホールにて同年2月6~13日上演。