現在放送中のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK総合/毎週月曜~土曜8時ほか)で2代目ヒロイン・るいを演じているのが、13年ぶりの連ドラ出演となった女優の深津絵里。90年代以降、常に芸能界の第一線でキャリアを重ね、デビューから35年経っても変わらず瑞々しい魅力を放つ彼女の代表作を振り返ってみよう。



【写真】深津絵里、圧倒的な透明感!

『踊る大捜査線』『きらきらひかる』『西遊記』…テレビドラマ黄金期を席巻

 1986年、ミス原宿グランプリ(コンテスト)での優勝をきっかけに13歳で芸能界デビューした深津。1988年、15歳でJR東海「クリスマス・エクスプレス’88」のテレビCMに起用されると、その端正な顔立ちと愛らしいたたずまいで一躍注目を集める。すでに女優としての活動をスタートさせ映画出演も果たしていた彼女は、90年代に入るとテレビドラマへの出演が急増。“テレビドラマ黄金期”とも呼ばれる90年代の傑作・話題作に次々と起用されていく。

 90年には『予備校ブギ』(TBS系)に織田裕二に付きまとうフリーター役、92年には『愛という名のもとに』(フジテレビ系)に江口洋介に関わる東大生役、『二十歳の約束』(フジテレビ系)に稲垣吾郎に思いを寄せる遊び仲間役で出演。さらに翌93年の奥山佳恵、常盤貴子とトリプル主演を務めた『悪魔のKISS』(フジテレビ系)では新興宗教にのめり込むヒロインに扮し、視聴者に強烈なインパクトを与える。
その後も順調にキャリアを重ねて、95年の『最高の片想い』(フジテレビ系)ではダブル主演の本木雅弘の相手役として、主人公の公介(本木)に一目惚れし、一途に片想いをするヒロイン・くるみを演じ、そのキュートな演技で人気を集めた。

 そして97年には、深津の代表作の1つとも言える『踊る大捜査線』シリーズ(フジテレビ系)がスタート。このシリーズで彼女が演じたのは、主人公・青島(織田裕二)の先輩警察官の恩田すみれ。警察組織を一般企業になぞらえた斬新な物語の中で、凛とした存在感を放った。レギュラー放送終了後、再放送で根強いファンを獲得すると、番組はスペシャルドラマや劇場版へと発展。深津自身も新たなファンを獲得していく。


 そして『踊る大捜査線』放送の翌年にスタートした主演ドラマ『きらきらひかる』(フジテレビ系)では、解剖遺体と真摯に向き合う監察医・天野ひかるを熱演。仕事も恋も全力で打ち込むヒロイン像は、お仕事系ドラマの先駆けとして多くの視聴者の共感を得る。ドラマは99年と2000年に特番として続編が製作された。

 2000年代に入っても話題作への出演は続く。2001年放送の『カバチタレ!』(フジテレビ系)では『悪魔のKISS』で共演した常盤貴子とダブル主演を務め、コンビネーション抜群の掛け合いを披露。さらに坂元裕二が脚本を手がけ香取慎吾が主人公の孫悟空に扮した月9『西遊記』(フジテレビ系)にも出演。
かつて夏目雅子も演じた高僧・三蔵法師を抜群の透明感と気品に満ちた演技で体現した。

森田芳光、黒沢清etc…名監督とのタッグで海外でも高い評価

 深津のキャリアを語る上で、日本を代表する名監督とコラボレーションした映画作品も見逃してはいけない。

 昨年、没後10年を迎え再評価の気運が高まる名匠・森田芳光監督がメガホンをとった96年公開の『(ハル)』は、インターネット隆盛前夜のパソコン通信をモチーフにしたラブストーリー。この映画で深津が演じたのは、(ほし)というハンドルネームを使うヒロイン・美津江。劇中では内野聖陽扮する昇とのもどかしくも淡い恋を展開した。

 ドラマ『踊る大捜査線』の劇場版や、森田芳光監督と2度目の顔合わせとなり第27回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した『阿修羅のごとく』への出演を経て、2006年に公開された出演作が『博士の愛した数式』。
故・黒澤明監督に師事した小泉堯史監督が手がけた本作は、事故により記憶が80分しかもたない元・数学者の“博士”(寺尾聰)と、彼の家に派遣されることになった家政婦・杏子(深津)の交流を描いたヒューマンドラマ。深津は温かみのある映像の中で、シングルマザーとして健気に一人息子を育てる杏子を見事に演じきり観客の涙を誘った。

 『フラガール』『怒り』の李相日監督がメガホンをとった2010年公開の映画『悪人』で、深津は『ザ・マジックアワー』に続いて妻夫木聡とタッグを組むことに。この映画で彼女が演じたのは、地方都市で恋愛とは縁遠い暮らしを送っていた紳士服店勤務の光代。出会い系サイトを通じ知り合った祐一(妻夫木)と恋に堕ちるが、彼は殺人を犯していたのだった…。人間の本質に迫った本作で、彼女は主演の妻夫木を相手に大胆なベッドシーンも披露。
体当たりの熱演は国際的にも高く評価され、第34回モントリオール世界映画祭で女優賞を獲得する。

 さらに国際映画祭の常連でもある黒沢清監督による2015年公開の映画『岸辺の旅』に浅野忠信とともにダブル主演。3年間の失踪を経て“死者”となって帰ってきた優介(浅野)と、そんな彼を受け入れ、共に旅をすることになった妻の瑞希(深津)。この映画で深津は、夫・優介との空白の時間を埋めるように旅をする瑞希の心情を繊細な演技で表現。上映された第68回カンヌ国際映画祭でも高い評価を得ることになった。

抜群の演技力と透明感で“18歳のヒロイン”も違和感なし!

 90年代初頭から数々のドラマや映画で名演を披露してきた深津も、俳優としてベテランと呼べるキャリアに入りつつある。
そんな彼女が現在ヒロイン役で出演しているのがNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』だ。意外なことに本作が朝ドラ初出演となる彼女が演じているのは、母・安子(上白石萌音)に複雑な心情を抱いている18歳のるい。
 
 11日に49歳の誕生日を迎える深津は、『芋たこなんきん』放送当時47歳だった藤山直美を抜いて、朝ドラ史上最高齢のヒロインに。そんな彼女は30年以上にわたるキャリアで培われた演技力と、デビュー当時から変わらないみずみずしい透明感で18歳のるいを体現。2021年12月、劇中に初めて登場すると、ネット上には「美しすぎる」「違和感ゼロ」「相変わらずの透明感」などの称賛が相次いだ。今後はオダギリジョー演じるトランペッター・錠一郎との恋の行方が物語の重要なポイントとなっていくだろう。

 13年ぶりの連ドラ出演にも関わらず、まったく色あせない魅力を放っている深津。『カムカムエヴリバディ』での活躍ももちろんのこと、このドラマ以降、さらに円熟していく彼女の演技をさまざまな作品で楽しめることを期待してやまない。(文:スズキヒロシ)