現代の漫才は、「M-1グランプリ」の歴史とともに急激に進化を遂げてきた。そして2008年の今、漫才を演じる上で無視することのできない2つの大きな流れがある。
それは、「手数重視」と「スピード勝負」だ。


 「手数重視」とは、要するに「ボケの数が多い漫才が有利」ということ。4分という短いネタ時間の中に笑いどころを極限まで多く詰め込む、というのは最近のM-1で勝ち抜くための基本戦略となりつつある。

 例えば、昨年の王者であるサンドウィッチマンが、漫才の冒頭で即座にネタに入っていたのも、余分な間を空けずにボケの数を増やすための工夫だったのである。

 そして今、「手数重視」の現代漫才の象徴とも言える存在が、今回のM-1で優勝候補の筆頭と言われたナイツである。ナイツが今年のM-1決勝の1本目で披露したネタでは、たった4分の間に33回ものボケが詰め込まれていた。

ツッコミで笑いを取る箇所も含めると、実際の笑いどころはさらに多い。これは恐らく、4分の漫才に入りきるボケの回数のほぼ限界に近い数字だ。短い時間にボケをぎっしり詰めた密度の濃い漫才を披露してこそ、M-1で優勝を争えるようになるのである。

 もう1つの「スピード勝負」とは、単純に言えば、スピード感のあるネタが高く評価されやすい、ということだ。もちろん、本来ならテンポが速いか遅いかだけで漫才に優劣をつけることはできない。ただ、緊張感で張り詰めた独特の雰囲気のもとで行われるM-1決勝で結果を残すためには、ある程度速いテンポの漫才で客席の空気をつかむことは不可欠になっている。

おぎやはぎやPOISON GIRL BANDのゆったりした漫才では、今のM-1を制するのは難しい。

 もちろん、これは単に早口でネタを進めればいいという意味ではない。1つ1つのボケが弱いと、速いテンポはむしろ逆効果になる。個々のボケを確実に決めながら話を進めて、「次々にぐいぐい来るなあ」というスピード感を印象づけることが重要なのだ。

 この「手数重視」と「スピード勝負」という現代漫才の2つの潮流から考えると、今年のM-1を制したNON STYLEの歴史的な意義が明らかになる。すなわち、NON STYLEとは、これら2つの要素を高い水準で満たしていた唯一無二の漫才師だったのである。

 NON STYLEが決勝の1本目で披露したネタでは、ボケの回数がなんと51回。手数では並ぶものはないと思われていたナイツをも上回っているのである。

 また、NON STYLEはスピード感という面でも決勝9組の中で群を抜いた存在だった。M-1決勝という大舞台でも、あの超高速漫才に全くぶれがない。他の決勝進出者にそれぞれ1、2回程度の細かいミスが見られたのに比べて、NON STYLEは目に見えるミスが1回もなかった。ボケとツッコミが本当にきっちり絶妙な間合いでぴたっと来る。

漫才として減点対象になるような部分が一切なく、数々の賞レースを総なめにした彼らの底力を見せつけたという感じだった。

 手数でナイツを上回り、スピード感で笑い飯キングコングを上回り、さらに精密さで他の決勝進出者全員をわずかにしのいでいたNON STYLE。現代漫才の潮流の最先端を行く彼らの優勝は、漫才日本一を決める大会としてはこの上なく妥当なものだったと言えるだろう。
(文/お笑い評論家・ラリー遠田)



【関連記事】 前回王者サンドウィッチマンに聞く『M-1必勝法』はコレだ!!
【関連記事】 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」江頭2:50
【関連記事】 「ルネッサ~ンス」髭男爵が営業で稼げない裏事情