年始一回目の今回は、昨年2008年に起きた犯罪を回顧し、再び同じような事件が起きないようにするために、私たちはどうすればいいのかを少し考えてみたい。
何の殺されるいわれもない被害者の側からすれば、事故としか言えないこれらの事件であるが、一部では容疑者たちへの率直な共感を語る人が多かった。秋葉原における事件では、ネット上で加藤智大容疑者(26)に対して「格差社会の英雄」「神」などと賛辞を述べる現象があり、事件は多面的な意味合いを持った。
このように突然誕生する事件の加害者に共通して言えるのは、「積年の」なのか、「ぼんやりとした」ものなのかの違いはあるとして、社会に対する負の思いがあることである。しかし、程度の差はあれ、社会への不平不満は誰でも持っている。これは当たり前のことだが、負の感情を溜め込んだ人間が犯罪を行うか行わないかは、それが爆発するかしないかで決まる。そしてそれが爆発、暴発するきっかけは、非常に個人的で矮小な、客観的に観ればつまらないものであることも少なくない。
私は、その暴発のきっかけ、つまり犯行を行うスイッチが入る要因のひとつとして、化学物質による脳への影響があると思っている。一連の通り魔事件の容疑者たちの行動心理は、ドラッグなどの薬物に脳内汚染された人間のものに酷似している。薬物中毒者は「神との会話」「光を見た」など、なんらかの啓示によって突然、沸点を越え暴発する。一方で、一連の事件の加害者たちは薬物中毒者ではないが、現在の日本に化学物質が蔓延していることを考えれば、それが脳内に影響を与えている可能性は高い。このような、化学物質による脳内汚染が原因で犯罪が多発する時代が来ているという説を、アメリカの評論家H・パッカードという人物が述べている。彼は数年前に亡くなられたが、長く日本に滞在していて、日本の環境・化学物質汚染の状況と日本人の危機意識の無さを嘆いていた。
多動性障害や、いわゆるキレやすい人間を生み出してしまう原因となる可能性がある化学物質への社会的な対応に関して、たしかに日本は遅れている。例えば、イギリスでは、このような化学物質による影響を減らそうと、食品添加物や保存料を含む飲料や食品に対して注意を促し、合成着色料の使用を規制するなど国を挙げて試みている。しかし、日本では口からはもちろん皮膚からも入り込み脳内を汚染するこれらの化学物質被害の可能性について、メディアではあまり扱われていない。特にテレビがこの問題に触れようとしないのは食品業界が大手スポンサーであるからだ。しかし、今後はこれも、ひと頃の中国産不買運動や禁煙キャンペーンのような運動になってしかるべきではないか。
彼ら犯罪者の行動をただ責めるのは簡単だ。
(談・北芝健/構成・テルイコウスケ)
●きたしば・けん
犯罪学者として教壇に立つ傍ら、「学術社団日本安全保障・危機管理学会」顧問として活動。1990年に得度し、密教僧侶の資格を獲得。資格のある僧侶として、葬式を仕切った経験もある。
【関連記事】 小泉毅単独犯説にメス 元厚生事務次官宅連続襲撃事件の闇
【関連記事】 さらば、三浦和義...アウトローに愛されたカタギの"悪人"
【関連記事】 熾烈! 公明党 vs 民主党 でも選挙後は連携へ!?