去る6月28日、東京電力の第87回定時株主総会が、東京・港区にあるザ・プリンス・パークタワー東京で行われた。
当日、現地を訪れるといきなりその異様さを痛感させられた。地下鉄の出口から会場までの道に、幾人もの警察官の姿があったからである。当の総会の警備であることは明らかだった。
通常、株主総会の警備に警察官が動員されることは極めて稀である。かつて、総会屋が盛んに活動していた時期には、総会会場付近に警官が配備されることはあった。
しかし、今回の警官動員は異例であった。道路だけでなく、ザ・プリンス・パークタワー東京の周囲、施設内に至る入口という入口をことごとく警官がガードしている。まさに厳戒態勢と呼んでもおかしくないレベルだ。警官の数も、筆者が目視で数えたところ、制服と私服合わせて100人はいたと思われる。
さらに、現場には総会に参加する株主で長蛇の列ができていた。定刻の10時になっても、まだ会場には入りきらなかった。結局、ほぼすべての入場し終えたのは10時38分ごろだった。
現場にいた東電の職員や後に出席した株主などに聞いたところ、受付では出席する株主に対する持ち物検査が行われた。その内容は「バッグの中を見せて下さい」という程度の簡単なものだったが、こうした例は株主総会ではむしろ少ない。
しかし、総会会場にカメラやボイスレコーダーを持ち込むことを禁止している総会はそれほど多くはない。もちろん、違法でもない。
11時現在で、出席株主数は「8,657名」(東電職員)。その後も、遅れて何人もの株主が到着した。
会場外ではマスコミ各社と警官隊が待機。
退席した株主などからの話によると、会場は5つに分けられ、メイン会場には東電役員が壇上に並ぶという、総会で定番の形式。他の会場では議事等の様子をモニターで眺めるしかなかった。
さて、株主からの原子力発電からの撤退を提案した、問題の「3号議案」の審議に入ったことが分かったのは、15時を過ぎたころだった。その後、16時を過ぎたあたりで、閉会そして散会となったことが外にいたマスコミなどに伝えられた。
退出してきた株主から聞かれたのは、東電に対する失望や不信の声だった。
総会は、議長を務めた勝俣恒久会長がほぼすべて仕切る形で進められたという。議事の中心はメイン会場で、しかも「半分以上の席が東電関係者で占められていた」(42歳男性)という。
株主総会で席の前列の何列かが社員株主で埋められているケースは通例となっている。しかし、今回の東電の総会では、相当な数の動員がかけられた可能性が高いことは、多くの出席株主からの証言で推測できる。
そうした動員株主による「異議なし!」「議事進行!」の声が飛び交うのも、多くの総会でみられることだ。
だが、今回はかなり強引なケースもあったらしい。ある男性は野次を飛ばしたところ、その動員株主と思しき者から「黙れ!」などと怒鳴られて外に連れ出され、人けのない場所に連れて行かれそうになったという。「ヤクザの総会屋みたいだった」と男性は言うが、その手の総会屋が現在も活動しているという話は、絶えて聞かない。むしろ、そうした特殊株主が活動していたのであれば、対処用に動員された警察が動くはずである。しかし、そうした気配はまったくなかった。
また、多くの株主があきれたのは、勝俣会長ら東電の傲慢で不誠実な態度だった。
今回の総会では、事前に東電側が複数の大株主から委任状を受け取っており、それによって東電の思惑通りの結果になるという仕組みだった。そのことを、勝俣会長は列席の株主たちにこんなふうに告げたという。
「あなたたちが何を言っても、委任状ですでに過半数を取っているんです。何をやっても無駄です」
そして、3号議案はあっさりと否決された。挙手できたのはメイン会場だけで、ほかの会場の株主は「黙ってモニターを眺めているしかなかった」という。しかも、多くの株主が「明らかに賛成の挙手が多かった」にもかかわらず、議長の勝俣氏は即座に「反対多数とみなし......」と宣言した。これも、「委任状」によるもので、挙手の必要など最初からなかったのである。形式的に行っただけであった。
こうした東電の態度に多くの株主が、「誠意がまったく感じられない」(69歳男性・千葉)「まったくの茶番。あんな株主総会ならやる必要なんて無いよ」(70代男性)「株主を完全にバカにしていますよ」(66歳女性・大田区)などの声が多く聞かれたが、怒りというよりもあきれたという感じの株主が少なくなかった。
また、テレビや新聞では「反対多数により否決」などという表現で報道されたが、これではあたかも反対挙手が圧倒的に多かったように感じられるのではなかろうか。しかし、「反対票の大部分は委任状によるもの」と説明する報道はほとんど見かけない。
他にも、「今回の福島の事故について、役員一人一人は責任をどう考えているのか」という質問がなされたが、これも勝俣氏がまとめて形だけの回答をするのみで、各々の役員が発言することはなかった。また、「役員は私財をなげうって事故被害者の救済に当てるべきではないのか」という質問には、「(私財は)プライベートな問題なので答えられない」と回答。さらに、原子力事業についても、「私たちは国の政策にしたがって進めただけのこと」「原子力委員会の言う通りに事業を行っただけ」などと、まるで当事者ではないかのような発言を連発。株主からは「まるで他人事みたい」「自分たちが被害者のような言い方だった」との声が続いた。
国内だけでなく世界中が注目する株主総会で、なぜ東電はこれほど誠意や反省が感じられない、無責任ともとれる発言を繰り返したのか。ここに、東電というものの「体質」がうかがえるように筆者には感じられた。
(文=橋本玉泉)
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