写真撮影の際に女子高生が取るポーズといえば、かつては「裏ピース」が基本だったし、今なら人さし指と親指で作る「指ハート」が定番。一方、不良だったら「ウンコ座り」がフォーマットだ。



 各々の人種には、なぜかふさわしい定番ポーズがある。しかし、それらには、はやり廃りが付き物だ。

 そんな中、長期間にわたって“定番”の座を譲らないポージングが存在する。それは、ラーメン店の店主が取る「腕組み」である。お店オリジナルのTシャツに袖を通し、頭にタオルを巻いて、たけだけしい表情で写真に収まる彼ら。いかにもこだわりを持っていそうな印象を与えるアレ、一体いつ、誰が始めたものなのだろうか?

■突如、「腕組み」をするラーメン店の店主が大量発生

 7月18日に放送された『いつからこうなった?』(テレビ朝日系)は、番組名の通り「いつから~?」という疑問を超本気で調査するプログラムだ。



 今回の疑問は「いつから“ラーメン屋の店主は腕組みするように”なった?」。

 番組が街行く人に「ラーメン店のポーズのイメージ」を尋ねると、全体の6割以上は「腕組み」と回答している。市井の人の脳内には、ラーメン店店主が腕組みする姿が“定番”として確実にインプットされていた。

 そこで気になるのは、いつから「腕組み」が定番になったのか? ということ。スタッフは過去にラーメン特集が組まれた雑誌をチェックする。すると、1992年の特集ページでは、ラーメンの写真ばかりで、店主の写真そのものがないことが判明。
94年の特集では、店主の写真はあったものの、そのほとんどが腕を組んでいないことも判明した。何しろ、店主は皆ほんわかと笑顔で写っていたり、被写体としての意識が希薄なのだ。

 そして、2000年。この時代になると、「腕組み」する店主がチラホラと現れている。しかし、まだ40人中2~3人程度と少数派。それが10年以降になると、大量発生しているのだ。
もはや、みんな組んでると言っても差し支えない。ならば、94~00年の間に「腕組み」の芽が生まれたということになる。

 ところで、「腕組み」の代名詞的存在といえば誰だろう? 00年前後オープンのラーメン店を対象に調査したところ、ある店主から「蒙古タンメン中本」店主・白根誠氏の名前が挙がった。

 実際にスタッフが「蒙古タンメン中本」を訪れると、お店には白根氏が勇ましく腕組みしている写真が飾られている。早速、本人に直接聞いてみた。なぜ白根氏は、写真撮影時に腕を組んだのか?

「もともとは、『腕組んでください』って取材する側から言われたよね。
俺もそういうもんだと思ったから(笑)。もう、ラーメン店でも組んでる人が多かったのかな。俺の先輩の人とか。20年前には組んでるイメージがあったね」

 つまり、00年頃には「腕組み」のイメージが定着していたことになる。

■『ガチンコ!』の佐野が一貫して「腕組み」をした理由

 番組は、多くのラーメン店が集まる施設、立川の「ラーメンスクエア」を訪れた。ここにはラーメン店店主のポスターが所狭しと設置されており、そのどれもがやはり腕を組んでいる。



 各店主に「腕組み」について取材をすると、不意にある店主から1人の男の名前が挙がった。

「佐野実さんが(腕組みを)始めたんじゃないかなと思ってるんですけど」

 99~03年にまで放送されていた『ガチンコ!』(TBS系)の企画「ガチンコ! ラーメン道」の講師を務めた“ラーメンの鬼”佐野実! 彼が「腕組み」の元祖なのだろうか?

 いよいよ、ここからが調査のヤマ場。14年に佐野は他界しており、番組は夫人のしおりさんに話を聞きに行った。

「まあ、間違いなく影響を与え、腕組みをする風潮を作ったのは佐野じゃないかと私も思います」

 佐野がラーメン店「支那そばや」をオープンしたのは86年。その3~4年後にはマスコミが取材で店を訪れるようになっており、なんとその頃から佐野は「腕組み」していたらしい。90年頃、すなわち30年近く前からだ!

 別の角度からの検証も行われた。
92年に佐野を取材したカメラマン・嶋田邦雄氏から、貴重な証言を得ることができたのだ。

「(佐野は92年には腕を)組まれてましたね」

「あの時、(こちらから)ポージングの指示はしなかったです」

「クセなのかわからないですけど、腕組んでる姿が(佐野の)普段の姿という感じでした(笑)」

 佐野のイメージが抜けなくなった嶋田氏は、以降、取材の際に「とりあえず腕組んでください」と、必ずポージング指示をするようになったという。

 だけど、なぜ佐野は一貫して腕を組んだのだろう? その理由については、しおり夫人が説明する。

「『どうだ!』っていう責任。『自信を持ってお出しして、責任持ってやってるぞ』、それが自然と腕組みに表れたんじゃないかと」

 なるほど、「腕組み」はラーメンに命を懸ける男の誠実さの表れだった。

 佐野の「腕組み」には、ほかにもうひとつの理由がある。佐野が店をオープンした頃、ラーメンは飲食業界で“底辺の食べ物”だったそう。

 「『ラーメン店をやりたいんだ』って言ったら、『ラーメン店なんかに!?』みたいな反応をされる。自分が大好きなラーメンをやろうとしてるのに、馬鹿にする言い方をされて火がつき、『よし、頑張ろう!』と思ったのは間違いないですね」

 完全に、答えに行き着いたようだ。ラーメン店店主の定番「腕組み」のルーツは、佐野実にある。そして90年代半ばのラーメンブーム時、取材カメラマンは各店主に佐野のポーズ(腕組み)を指示。結果、「腕組み」のイメージが浸透した……というわけだ。

 いや、佐野が普及させたのは「腕組み」だけじゃない。佐野を取材したカメラマンの嶋田氏は、その後カメラマンを辞め、なんと、自らラーメン店を開業していた。

「佐野さんが貫いてきたラーメンへの想いですとか信念を引き継ぐというのが、私の想いですね」

「腕組み」に込められた感情は、まさにガチンコ。そして、そのスピリッツは、関わった々へと受け継がれていた。佐野実の「腕組み」は、他人の人生を変えてしまうほどガチだったのだ。

(文=寺西ジャジューカ)