中国で迷宮入りとなった数々の事件の中には、常人には理解すら難しい猟奇的な事件もある。

 2006年に発生した「廊坊梨園村殺人事件」は、事件の異常性と凄惨さゆえに闇に葬られてしまった。



 この事件が周知のものとなったのは、発生から10年がたった16年10月9日のことだった。この日、SNSサイトに「06年に河北省の廊坊梨園村で起こった殺人事件について」と、あるネットユーザーが投稿したのだ。

 投稿の内容はこうだ。妻の浮気を知った夫が逆上し、妻を殺害。その後、夫は遺体から皮を剥がし解体すると、心臓や体の一部を鍋にして食べた。さらに、残った肉を動物の肉と偽り、近所の住民に配ったり、飼いにエサとして与えるなど、異常な行動を繰り返していた。
その後、妻の姿が見えなくなったことを不審に思った近所の住民が警察に通報し、事件が発覚。現場で警察が撮影したと思われる遺体写真も併せて投稿されていた。

 センセーショナルな内容に、ネット上では瞬く間に話題となった。しかし、過去を振り返ってもこの事件についての報道はなく、投稿者の作り話とする見方も少なくなかった。

 そこで複数のメディアが当時の裁判記録を調査したところ、確かに廊坊梨園村では夫が妻を殺害する事件が起きており、裁判が行われていたことが判明した。ところがどういうわけか、そのの内容については一切非公開となっており、具体的にどのような事件だったのか知ることができなくなっていたのだ。


 さらに、あるメディアが廊坊梨園村を管轄する廊坊市公安局にSNSの投稿内容の真偽について取材したところ、広報担当者は10年ほど前に同地域で殺人事件があったことは認めたものの、事件の内容や写真の真偽については「詳しく話せない」として多くは語らなかったという。

 今回の殺人事件をネットに投稿したアカウントはすでに削除されており、今となっては事件の詳細を知るすべは残されていない。中国では社会に大きな影響を及ぼす事件が発生した場合、その事件の捜査内容や裁判が非公開となる例は少なくないが、ネット上では「犯人は地元の有力者だったのだろう」「だまされて遺体を食してしまった人が大勢いたために、封印されたのだろう」などなど、さまざまな臆測を呼んでいる。

 真相は、いまだ闇の中である……。

(文=青山大樹)