『マルコポロリ!』(カンテレ)TVer公式サイトより

 7月24日放送『マルコポロリ!』(カンテレ)にて、「グレープカンパニー徹底解剖SP」が行われた。

 今、一番面白いと噂の番組である。かつてはゴシップを取り扱うワイドショー形式だったが、TVerで全国の視聴者が見られるようになって以降、コアなお笑いの事象をテーマに据えた番組に様変わりした。

 今回は、永野、あぁ~しらき、口笛なるお(わらふぢなるお)、ランジャタイ、お見送り芸人しんいちを迎え、所属事務所について掘り起こす「グレープカンパニーの光と影」がテーマだった。

『水ダウ』以来の「永野VSしんいち」で飛び出した秀逸なディス

 世間から注目を集めていたのは、永野としんいちの顔合わせだ。6月29日放送『水曜日のダウンタウン』(TBS系)における「陰口引き出し王決定戦」で、永野に「マジで老害」「面白くない」と陰口を叩いたしんいち。あれ以来、2人は今回が初の共演だそう。

 司会の東野幸治はグレープカンパニーの内情を探るべく、永野と後輩の関係を質問した。

東野 「永野君はランジャタイをどう思ってるの?」
永野 「ランジャタイのことは、M-1で優勝したとき……」
東野 「優勝じゃなくて、決勝に行ったときね?」
永野 「あ、ごめんなさい。自分の中では優勝だったので。決勝で結果を出して、『こいつら、すげえな』と思ったので」
東野 「でも、しんいちもR-1優勝したやろ」
永野 「いやいやいや、(東野を指して)芸能界のプロじゃないですか。R-1とM-1は差がある(笑)」

 カンテレのスタジオで、カンテレ制作の『R-1グランプリ』を遠慮なく下げる永野。笑いで煙に巻きながら、芯を食ったことを言うあたりは永野だ。

永野 「(しんいちを指しながら)配信の世代だから!」
しんいち 「(永野を指して)頭おかしい人やねんから! グレープカンパニーのガンやねんから、この人! 老害、ガン、はい最低!!」
永野 「(しんいちを指して)配信の世代だから。お前のことは縦長で見たい!」

「配信の世代」「お前のことは縦長で見たい」と、秀逸なディスを連発する永野。放送開始から15分が経過したのに台本は1ページも進まず、画面上には「世界一ムダな15分間」とテロップが出る始末だった。序盤からぐちゃぐちゃである。

口笛なるおの存在に気付き、主役に据える東野幸治の嗅覚

 狂人たちが躍動する中、おかしな状況に困惑しているのは番組初登場のなるお。彼はかつて、永野から1時間半にわたって執拗なイジりを受けた経験があるらしい。

東野 「何が気に入らないの、口笛の?」
永野 「なんて言うか、ハッキリ言って“伊達くずれ”というか。伊達の劣化版じゃないですか」
なるお 「それ、すごい言うんですよ! すごい嫌なんですよ、俺」
永野 「東野さんは業界長いから、わかってたと思うけど」
東野 「わかってへん、わかってへん! “伊達くずれ”と思ってないですよ。ただの黒豚やと思ってる(笑)」
なるお 「いや、それもそれで嫌なんですよ」
永野 「なんか、伊達にある温かさもないし。“冷たい豚”じゃないですか。絶対、人気出ないですよ!」

“狂犬”永野だけでなく、しんいちもなるおに刃を向けた。ベテランとして雛壇中央、いわばリーダーのポジションにいるなるおに「なんで、そこ座ってんの?」と暴言を吐くのだ。

しんいち 「前出てくるな、なるお! なんで目立つの!?」
なるお 「いいだろ、別に! 本番前にマネージャーから『ツッコミ、頑張れ』って言われてんだよ!」

 芸人ではなく、まるで社会人のように後輩を叱りつけるなるお。その横に表示されたのは、「狂人祭りに迷い込んだ社会人」というテロップだった。

東野 「黒豚が怒ってるから」
なるお 「黒豚もおかしいでしょ!」
永野 「正論黒豚!」
なるお 「『正論黒豚』ってなんだよ!」

 徐々に、なるおが番組の軸になっていく構成が素晴らしい。凡百の番組なら『水ダウ』の流れから「永野vsしんいち」への後乗りで終わるはずだが、インスタントにその構図では収まらない。なるおの平場の弱さが面白くなるや、その存在を一瞬で嗅ぎつけ、彼にスポットを当てる東野の嗅覚がさすがだ。大まかな台本はあるだろうに、結局はその場の流れ次第となる番組の魅力が詰まった回だった。

永野 「(展開が)こういう、カオスな感じで終わるの嫌です!」
東野 「いや、でも、かなりウケてましたけど」
永野 「でも、こっち(トーク)でいきたいです。エピソードトークとか」
東野 「そうなんですか(笑)」
永野 「お手のものなんですよ、我々。正直、ランジャタイと永野とかがいたら『進行めちゃくちゃ~!』って、お手のものなんですよ(笑)。朝飯前なんですよ」

 グレープカンパニー回だったからこそ、流れで内容がいかようにも変わる『マルコポロリ!』らしさが発揮されているとも言える。

「センター・なるお」の流れがクライマックスに至ったのは、あぁ~しらきについて掘り下げるブロックだった。彼女に関するエピソードトークを披露するのは、なるおだ。

なるお 「2カ月ぐらい前に一緒にライブ出させてもらったんですけど、そのときに僕としらきさんが楽屋のモニターで舞台を見てたんですね。舞台上ではヤーレンズってコンビが漫才をやっていて。で、しらきさんが『あれ。ヤーレンズの足元に何か落ちてない?』って言うんですよ。『見たけど何もないですけどねえ』って言ったら、しらきさんが『あっ、ごめん。あれ、クソ……クツだ』って言ったんです」
永野 「え? クソがあったんですか? 面白いじゃないですか、クソがあったんでしょ?」
なるお 「……」
永野 「黒豚、噛みましたよ、今。黒豚が初めてボケたら」
東野 「ここは、実はすごく大事で。スタジオがわちゃわちゃになったから、改めて番組として建て直さなあかんということで、ベテランに託したわけです、僕は。口笛さんのエピソードトークで番組を立て直そうと思ったら、クツをクソ?」
永野 「なんで!? 全然、難しくねえじゃん!」
なるお 「……」

「クツ」を「クソ」と軽く噛んだだけで、ここまで笑えるくだりにする団体芸がスゴい。画面上には「社会人なるおのクツ≠クソ事変」というテロップが踊っており、なるおの軽いミスを番組総出で“神がかった噛み”に昇華させている。

TVerがなくなったら困る番組No.1

 散々、場を荒らしておきながら「お笑いが好きなんでしょうね」といきなり素敵なことを言い出す永野。思わず、レギュラーのあいはら雅一(メッセンジャー)が笑い出した。

ぱら 「ハッハッハッハッハ!」
永野 「(あいはらを指し)お兄ちゃんもわかってくれてます」
東野 「違う、違う(笑)」
永野 「大阪の噂のお兄ちゃん。お兄ちゃんはわかる」
東野 「いや、(ビート)たけしさんと(中田)カウスさんの関係じゃないんですよ(笑)」
永野 「そう思ってましたよ、令和版の。違うんですか? たけしさんとカウス師匠じゃないんですか? 照れ臭いんすよね、お互いにね」
ぱら 「ハッハッハッハ!」

 突然、あいはらと共鳴して兄弟盃を交わす永野。グレープカンパニーの内輪だけで盛り上がるのではなく、関西に拠点を置くレギュラー勢ともちゃんと関係性を作る永野が無双している。

 最後はしんいちがギターを手に、オリジナルソング「永野さんのうた」の歌唱で締めるらしい。

「こうやって 誰からも愛されないこと 
言ってしまうところが 永野さんなんだよ
分かってるよ 後輩の面倒見がいいところ 永野さんの面白いところ
みんな色々あるけど……尊敬してるよ
大きい背中 見せてくれて みんな感謝してるよ永野さん
目標のひとりだよ サンドさんとは違う面白い人
グレープみんな だから大好き永野さん」

 泣かせる歌詞を歌うしんいち。長いフリから最後に落とすと思いきや、そのまま歌い上げてしまった。永野を褒めるだけの曲だったのだ。永野がしんいちを睨みつけている。これはどうなのだろう? 選択を誤ったような気もするが……。

しんいち 「……違うんかな、これ?」
東野 「永野さんの顔見てみようか」
永野 「(鬼の形相)」
しんいち 「僕はいろいろ言われてますけど、尊敬はしてますよ! ほんまに、大好きなんすよ」
東野 「この歌聞いて永野さん、どうですか?」
永野 「感動しました」
東野 「感動してたんや(笑)」
しんいち (崩れ落ちる)

「絶対、キレ芸だろうな」という顔から「感動した」で収録を大爆発させた永野。一言でこれは、本当にスゴい。物凄い地肩だ。

 最高の団体芸だった。台本で作られたものではなく、芸人同士がぶつかって生まれる笑い。サンド中心の事務所とは思えないほどカオスだが、決して永野の独壇場で終わらなかったのも素晴らしい。トークバラエティとしては『アメトーーク!』(テレビ朝日系)より壊れているし、『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ系)よりもテーマに沿っている。

 日曜の昼からこんな番組をやっているのだから、関西はスゴい。TVerがなくなって困る番組といえば、かつては『相席食堂』(朝日放送)だったが、今は間違いなく『マルコポロリ!』だ。これを見た後、筆者は一日じゅう『マルコポロリ!』の思い出し笑いがひどかった。今年見た番組で一番面白かったと思う。