全国各地で中止を求める声が上がっている「インボイス制度」が今年10月から始まろうとしている。売上1000万円以下の免税事業者がインボイス登録を行えば消費税の納税が求められる上、煩雑な事務処理も発生する。
市民の有志グループ「インボイス制度を考えるフリーランスの会」こと、「STOP!インボイス」の発起人で編集者・ライターの小泉なつみ氏は、「インボイス制度の影響は非常に大きく、いわば消費税押し付け合いのデスゲームです」と語る。
インボイス登録後の納税試算額に愕然……!
政府は「雇用関係によらない働き方」などとしてフリーランスという働き方を後押ししているが、インボイス制度で大きなダメージを受けるのが、そのフリーランスだ。
「インボイス制度のまずさを実感したのは、2021年10月頃に税理士さんと話した時です。免税事業者の私がインボイス登録をした場合どのくらい消費税を納税することになるのか、試算してもらったら、あまりの金額に驚いてしまって……。でも、どんなに調べても100%助かるような、安心して仕事が継続できる道がなかったので、活動を始めたんです」と小泉氏は振り返る。
そして、インボイス制度中止を求めるオンライン署名活動を始めると、すぐに3万の署名が集まり、賛同者からのアドバイスで記者会見も行った。徐々に協力者が集まり、2021年末に「インボイス制度を考えるフリーランスの会」(STOP!インボイス)が自然発生的に立ち上がった。
今年6月に開催された「STOP!インボイス全国一揆(国会議事堂)」までに全国の100人の政治家に会い、インボイス制度の問題を訴えている。
開始1年半で「STOP!インボイス」に寄せられた署名は21万筆超となった。この署名を30万筆にまで積み増しし、9月4日に財務省へ届けることを目標にしているという。
さらに同会では「お手紙リレー大作戦」と銘打ち、約1600の地方議会に「インボイス制度の延期・見直しを求める陳情書」を送付。現在、200超の地方自治体でインボイス制度の中止・延期・見直しの意見書が採択されているが(23年6月議会まで)、今後、全自治体の3割強にあたる540前後の自治体でインボイス反対の意見書が採択されることを目指し、地方自治体へアプローチを続けていくと小泉氏。
「今、全国で私たちと同じような反対運動をする方が増えています。署名活動をしたり、イベントを開催して賛同者を増やしたり、地方自治体に陳情や請願を送ったりして、少しずつ中止・延期の声を広げているところです」
SNSを多用したフリーランスならではの活動を続ける小泉氏だが、「個人的にはフリーランスだけでなく、中小企業も大きな影響を受けると思います」と語る。
「たとえば一部の出版社は、『取引先にインボイスの発行を求めない』と発表しています。インボイスの登録を避けたい私からすると本当にありがたい決断ですが、結局、出版社側が免税事業者の消費税を肩代わりするだけなんですよね。その分、消費税の負担が何千万円規模になる出版社もあるそうです。
また、免税事業者にインボイスを求めないと決めた出版社が、本やサービスの価格を上げる可能性も十分あるでしょう。すると、結局はインボイス制度に端を発した消費税の増税分を消費者が負わされることになります。
こうして考えると、この国に生きる人で、インボイス制度の影響を受けない人は誰もいないのではないかと思うのです。実際、制度導入によって電気代が上がることもわかっています。免税事業者・課税事業者・消費者の3者で消費税を押し付け合った結果、力関係の一番弱い誰かが泣くことになる。いわば“勝者なきデスゲーム”だと私は思ってるんです」
その先に、日本の国力低下というシナリオが待ち受ける可能性もある。
「フリーランス・個人事業主の中には、インボイス制度によって廃業するかもしれない、という声も上がっています。
インボイス登録を迷っているフリーランスへ
最後に、今もインボイス登録をするかどうか迷っているフリーランスはどうすればいいのか。小泉氏に聞いた。
「インボイス登録をするかどうかは個人の自由です。企業側も登録を強制することはできません。インボイス未登録を理由に、一方的に値引きしたり、取引を打ち切ったりすると、独占禁止法違反となる可能性があります。
免税事業者がインボイス登録をした場合、最初の6年間は納税額を低く抑えられる緩和措置も設けられました。ただし、登録をすることでこれまで必要のなかった消費税の申告・納税が発生することに変わりはありません。事務作業も増えるでしょう。
現在、インボイスの登録は個人事業主が約100万件、法人が約200万件の合計300万件。この数を多いと見るか少ないと見るかは人それぞれですが、登録者が増えれば増えるほど、国は『制度が受け入れられた』と考えると思います。
まだ登録を迷っている人は、本当に自分は登録しなければいけないのか、取引先や同業者などとよく話し合ってみてください。
このような作業自体、なんの生産性もないので本当に本当に腹立たしいのですが、制度を知らないまま登録することだけは避けてほしいです」
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