美食を愉しみ、ブランド品に囲まれた高級マンションで暮らし、リゾートでバカンス……SNSでセレブライフを見せつけ、多数のフォロワーを抱えていた“ばびろんまつこ”。しかし現実は偽ブランド詐欺を行うほど、その生活は窮していた――。
――東城さんは「ばびろんまつこ」という人物に、どんな印象を持ちましたか?
東城誠氏(以下、東城) カリスマ性はあるんじゃないかな。文章から賢さはにじみ出てますよね。LINEでお客さんとやりとりすると、そこに筆跡は残らないんですけど、文体で相手のスペックが若干わかったりするんですよ。その人の学力が文字の中に出る。
――短い文章の中で、いかに人の心をざわつかせるかに長けていたということでしょうか?
東城 僕もざわつきましたもん。ばびろん、エクセレント!(拍手)って。彼女は、成り金側のカテゴリーじゃないですか。僕もこの街で成り上がっていった人間なので、気持ちはわかるんですよね。SNSって、「いいね!」をもらう課金ゲームみたいな感覚になるんです。僕ら成り金はね、「いい時計買いました」って言ってはアップして、「東城さんすごいですね」と言われることが快感だから。
――ただ実際は、その生活は虚構で、ネット上でブランド詐欺を働いていました。
東城 それは本当にけしからんですね。でも、ネットオークションで65万円のカルティエ買う方もけしからんです(笑)。ネットの弊害ですよね。
――彼女がそこまでして、人にセレブな生活を見せつけたかったのは、なぜだと思いますか?
東城 おいしいものが食べたいというより、おいしいものを食べてる自分でありたいと思っていたんじゃないですか。高級な寿司を食べてる自分に酔いたい。自分があこがれているイメージと同化して、いつか自分もあこがれられる側になりたかったんじゃないかな。それが行き過ぎてしまった。一度そのラインに乗ってしまうと、期待されますしね。それは僕も感じてますよ。
――どんなことを期待されているんですか?
東城 僕、2015年の年末は、実家でゆっくり過ごそうかなと思ってたんですよ。でも、ふと思った。キラキラ発信源の身としては、これはハワイでも行かなきゃダメじゃね? って。「落ちぶれたね」「ちょっと景気悪いのかな」って言われるのが怖いんですよ。だから僕はニューヨークに行きました。
――東城さんは「お金を持ってるお客が一番」という、極めてはっきりした接客をされると伺いました。
東城 お金を使わない子からしたら「なんて雑な扱いするの」っていう接客です。でも「じゃあ考えてみて。あなたが100万円使ったときに、僕が3万円しか使わない女の子に優しくしたらどう思う?」って言うと、みんな納得してくれる。富裕層からウケる接客スタイルなんですよ。お金を使う側からしたら、「お金を使わない子を相手にしない」っていうのはプライドをくすぐられることでもあるから。高額を使う子に対して気持ちのいい接客をしたっていうのが、ナンバーワンになった理由だと思います。僕、ばびろんさんみたいなプライド高いタイプは、一発で持っていく自信ありますよ。
――なるほど、「ばびろんは簡単」だと。
東城 こういう子にとっては「ナンバーワン」がブランドなんですよ。僕の人間性じゃなくて、ナンバーワンというだけで指名してくれる。僕を指名するには「審査」が必要なんですけど、富裕層の人って「審査」とか「限られた人にだけ」っていうワードが好きじゃないですか。この街で「東城誠を指名してる」っていうのは、ある意味ブラックカード持ってるのと同じ認識になりつつありますから。
――不景気といわれる世の中だと、一見リスクが高そうな戦い方ですが……。でも、東城さんがナンバーワンになったことで、その常識を覆しましたね。
東城 その分の努力は、もちろんしますけどね。発言に見合った努力。僕、ものすごい整形してるんですけど……。
――存じ上げております。
東城 それも「お客さんが、高額を使うに見合った、いい男にならないと」と思って行き着いた自己投資なんです。
――それをオープンにしているのが、人とは違うなと思います。現在の日本では、整形にはどうしてもマイナスイメージを持たれがちです。
東城 この世の中、少し自虐を交えるとあんまり叩かれないっていうか、自分でディスってあげるんですよ。ばびろんさんも自虐していれば、そこまで追い詰められなかったと思います。世間がつついてきそうなところを予め自虐で処理しておくというのは、この世でうまく生き抜くために大事なところなんじゃないですか?
――先ほど、ばびろんを「一発で持っていく」とおっしゃっていましたが、逆に東城さんが「扱いづらい」と思うタイプのお客さんは?
東城 見栄を張らない子かな。見栄を張るっていう気持ちじゃなく、純粋に寂しい子は、苦手ですね。あとバカな子もイヤ。バカな子って、僕がなんか面白いこと言ってもわかってくれないんですよ。
――はい。翻訳家で、トム・クルーズの友達ですよね。でも「女はバカな方が可愛い」っていう男の人も多いような……。
東城 僕は少数派だと思いますよ。でもそういう気持ちになったのって、ホストの仕事を始めてからかもしれない。女の子を見すぎちゃって、可愛いだけじゃつまんないなって思うようになりました。
――あと、ばびろんは、やたら「セックス嫌い」をアピールしていましたが、そのことについてはどう思いますか?
東城 本当にセックス嫌いな人が、わざわざセックス嫌いなんて言わない。「セックス」って言葉自体、口に出さないと思います。「セックス嫌いと言う女は、かっこいい」っていう風潮があるから、そういったポーズなのかと。お客さんでも、「性欲ない」って言う子がいますけど、そんなことないですもん(笑)。わざわざセックスのことを何度もツイートするなんて、相当セックスが好きなんだと思いますよ。
――ホストといえば、「枕営業しているのでは?」などと、お客さんとの肉体関係を探られる機会もあるかと思いますが……。
東城 お客さんにとって「ホストとヤる」っていうのはゴールなんです。だから、「完全にヤレない」存在というのは夢がない。僕は、その駆け引きをUFOキャッチャーだと思っていて、例えばUFOキャッチャーで3万円使っちゃったら、景品が落ちるまで立ち去れないでしょう? それと同じで、僕に1,000万円くらい使っちゃったお客さんは、薄々「ヤレないだろうな」と感じていても、もう立ち去ることができなくなる。僕ならその状態で、あともう1,000万円使わせられると思いますけど。それがホストの仕事です。
――東城さんご自身は、“夜のUFOキャッチャー”で落ちちゃったという経験は?
東城 ……内緒です!(笑)
――最後になりましたが、ナンバーワンを獲得した東城さんの、次の目標を教えてください。
東城 この業界を極めたいなと思っています。店という垣根を越えても、ホストとしてナンバーワンでいたい。罪を償ったばびろんさんに、次こそは本当に成り上がってもらって「東城誠指名してるの~」って自慢ツイートしてほしいな。最近は芸能界からもオファーをいただいたりしておりますが、「自分はホストである」という軸は変わりません。やっぱりホストの世界で一番成功したのって、城咲仁さんだと思うんですよ。いつか城咲さんを超えるホストになりたいですね。
(取材・文=西澤千央/撮影=東京フォト工芸・酒井一郎)
東城誠(とうじょう・まこと)
1862年7月27日、パリ出身。歌舞伎町「PLATINA」本店、部長。同店ナンバーワンホストとして人気を博している。口癖は「お前ら金持って集合ーっ!!」。