羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな芸能人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。



<今回の芸能人>
「礼儀・挨拶を大切にされてる方で、そこを間違えたいろんな人を怒ってるのも知ってた」はるな
『今夜解禁!ザ・因縁』(TBS系、3月31日)

 芸人泣かせとして知られる『徹子の部屋』(テレビ朝日系)。お嬢様系自由人・黒柳徹子の前では、お笑い芸人もペースがつかめず、スベッたりしているが、芸人を差し置いて、芸能界一コンスタントに徹子を笑わせているのは、はるな愛ではないだろうか。派手な衣装、セクシャリティーにまつわる葛藤、家族との和解という人情話、自虐を含めた恋愛や体形の話……徹子の食いつきそうなネタをまんべんなく散りばめてくる。芸能界に入る前、はるなは水商売をしていたと、いろいろなテレビ番組で語っており、さぞ座持ちがいいホステスだったことだろう。

 人付き合いがうまそうに思えるはるなだが、時々は“失敗”もするらしい。3月31日放送の『今夜解禁!ザ・因縁』(TBS系)で、女優の仁支川峰子に“裏切り”を糾弾される。
仁支川によると、はるなとの出会いは映画での共演。大阪から東京に活動拠点を移したばかりのはるなは仕事がなく、月収は1万円程度で、撮影時、余った弁当をもらって帰ろうとする姿を目にした仁支川は、自分の家にはるなを招き、手料理をご馳走する。ビジネスクラスでハワイに連れていき、おこづかいもあげるなど、妹のように可愛がったという。はるなも「私が売れたら一緒にテレビに出ましょうね」と甘えるが、ブレーク後、お礼の電話すらなかったそうだ。

 さらに仁支川は、はるながニュースサイト「The PAGE」のインタビューで「恩人は中山秀征さん」と答えたことをたまたま目にし、激昂する。はるな自身は3年前、仁支川を焼肉に誘うことで謝罪したつもりだったが、仁支川の怒りはいまだ収まっていないようだ。
「なんで電話くれなかったの?」と詰め寄る仁支川に、はるなは「礼儀・挨拶を大切にされてる方で、そこを間違えたいろんな人を怒ってるのも知ってた」「怒ってると思ったら、どんどん電話できなくなって」と説明したが、これらの発言がほのめかすのは、“仁支川は、温情をかけた人に、たびたび裏切られている”ということである。



 義理人情を重んじる日本では、恩義は受けたら返すことが正しいとされていて、返さない人は“裏切り者”扱いされる。しかし、私がここで思い出すのは、知人のムスリムに聞いたイスラム教の「ザカートとサダカ」という制度である。「ザカート」は豊かな人が義務として行う納税で、その税金が貧しい人へ寄付として渡るという。また「サダカ」は、ご近所や親類など、よく顔を合わせる仲間が困窮した時にする寄付を指す。

 どちらも、豊かな人が困っている人に“与えている”わけだから、関係性としては、困っている人が豊かな人に頭を下げると思われがちだが、知人のムスリムいわく、むしろ威張っているのは寄付を受ける側なのだという。
「寄付する方は、善行をしていい気持ちになり、さらに徳を積めるのだから、むしろトクをしている」と考えるかららしいが、この考え方は、仁支川とはるなにもあてはまるのではないだろうか。はるなが一時、困窮していたのは事実だろう。しかし、仁支川の家まで行って手料理を食べたかったか、旅行に連れていってほしいとまで考えていたかというと疑問である。はるなの面倒を見ることで満たされていたのは、実は仁支川の方に思えてならないのだ。

 さらに芸能界が、“長い物に巻かれた方が勝ち”という世界であることを考えると、はるなが仁支川に返礼したとしても、メリットが少ないので、連絡を取らないようになったのも致し方ないのではないだろうか。テレビにたくさん出ている中山と、ほとんど見ることがない仁支川。
どちらを“恩人”にすれば、自分のテレビ仕事が増えるのかは、子どもでもわかることだろう。

 一般人の世界でも「あれだけしてやったのに」「裏切られた」という話は聞くが、感謝というものは“行為”から生まれるものではないと私は思っている。何をするかより、誰がするか。裏切られたと嘆くことは、「自分が小者だと思われていることに気づかなかった」と同義なのではないだろうか。