覚醒剤の使用や密売などで逮捕起訴され、通算12年を塀の中で過ごした後、その経験を基にさまざまな活動を続ける中野瑠美さんが、女子刑務所の実態を語る「知られざる女子刑務所ライフ」シリーズ。
■「あの人は、まだクスリをやってはる」って、すぐにわかりますよ
最近、周囲におかしい人、いてないですか? ちょっと前ですが、友達の友達から、「最近付き合い始めたカレが、どうもおかしい」という相談を受け、会ってきました。
現れたカレは、めっちゃイケメンで、ITの仕事でけっこう稼いでいるとのこと。うらやましい……と思ったのもつかの間、「めっちゃおかしいやん!」と驚きました。
冷房の効いた喫茶店で、いつまでも汗をかき、ずっと唇をなめています。しかも、何かとリアクションがオーバーで、お冷やの入ったグラスを何度も口に運ぶなど、とにかく落ち着きがありません。これは、かなりの確率で覚醒剤中毒者ですよ。
この時は何も言わずにお開きにして、その日の夜、彼女に電話しました。
「なんか、ヤバいクスリやってるんと違うかなあ」
「やっぱり……。いくら稼ぎがよくても、アカンですよね」
彼女はがっかりしてましたが、「その道のプロ」だった私に言われて、あきらめもついたようでした。
覚醒剤を使ったら、どのくらいカラダにとどまると思いますか? おしっこは1週間程度ですが、髪の毛や爪は、使い始めてから伸びた分を切るまで残るそうです。私の場合は、警察で、おしっこはもちろん、髪を100本近く切られ、爪も切られました。さらには、自宅に落ちていた髪も拾われています。一緒に使った人がいるか、見るためでしょうね。
捜査いうより、ほとんどイヤガラセです。おしっこを採る時は、なんと男性警官もいてました。「なんでオトコがおんねん! SMか!」と抵抗しましたが、ダメでしたね。ひどいもんですが、まあ私も悪いことをしたので、しょうがない面もあります。
そして、髪や爪以上に残るのが、「脳内」です。幻覚などの妄想は、半永久的に続くといわれています。使用をやめていたとしても、ちょっとしたストレスやお酒など、小さなきっかけで「フラッシュバック」が起こってしまうこともあるんです。
覚醒剤は、使い始めて2~3カ月ほどで、幻覚や幻聴、被害妄想などの症状が出るといわれています。この時すぐに治療すれば治るそうですが、逮捕(パク)られるとわかっているのに、医者に行く人なんかいてませんよね。せやから、どんどんひどくなっていくんです。
覚醒剤事件の場合、初犯だとまず執行猶予がつきますから、ここでも治療の機会はなくなります。つまり、シャブでムショにやってくるのは、2回以上の逮捕で、「シャブで妄想の症状がかなり進んだ」状態のコたちなんですよ。
おかげさまで私はなんとか大丈夫なのですが、今でも覚醒剤をやってる人は、すぐにわかります。ムショに入ってくる新人ちゃんたちの4割は覚醒剤がらみ(※)で、「自分、ナニやって来たん?」「シャブの使用です」とか会話する前に「あ、このコはシャブやな」と、すぐにわかります。
パクられて、判決が確定するまで、短くても何カ月か掛かるもんですが、そんな程度では抜けないほどの量を使っているんですね。そして、落ち着きがないくせに、ヘンな集中力はあるのも特徴です。手紙を書く時なんか、肩や顔にめっちゃ力が入って、唇がヨコにいってたり、足の指がぐーっと開いてたりします。あまりにも「ヘン顔」なんで、「唇、ヨコにいってるよ……」と教えたろかと思ったこともあります。あまりにも集中してて、声をかけるのが申し訳ないので、言うたことはないですけど。
でも、そのくらいならまだいいです。ネットニュースで、歌手のASKAさんが収容先の病院で「お菓子のサブレを洗濯物のように干していた」と報道された時は、「これは、相当イッてるなあ」と思いました。その後も、ヘンなブログを書いてはったりしてますよね。
同じポン中でも、10人に1人くらいの、いわば「選び抜かれた人」なのだと思いました。ここまで進んでしまうと、完全に治すのは難しいでしょうが、ファンも多いし、がんばってほしいですね。
※法務省『犯罪白書』によると、収容者の罪名はほぼ毎年同じ割合で、覚醒剤と窃盗(ほとんど万引)が4割ずつ、あとは詐欺が5%、殺人が2%くらいです。そのほかは暴行傷害とか、脅迫とか放火とか横領とかですね。バクチもありますが、やっぱり女性は少ないです。
中野瑠美(なかの・るみ)
1972年大阪・堺市生まれ。特技は料理。趣味はジェットスキーとゴルフ。『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)や『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS系)などへの出演でも注目を集める。経営するラウンジ「祭(まつり)」