(前編はこちら)

 前編では、「クソ物件オブザイヤー」を主催する「全国宅地建物取引ツイッタラー協会」の全宅ツイのグル氏(@emoyino)に、クソ物件が生まれてしまう背景を解説してもらった。後編では、クソ物件に住んでしまった人の体験談、また最近何かと話題の“タワマン”に関する意見を聞いた。

港区のデザイナーズマンションの貸主は?

 今後の人生で、「住んでみたらクソ物件だった!」となる日が来ないとも限らない。全宅ツイのグル氏が、実際にそんな物件を引き当ててしまった人のエピソードを披露してくれた。

 では、ひとつ、一般の方が見落としがちな「住んでみたらクソ物件だった!」というお話を。私の友人が賃貸マンションを借りたときのお話です。彼が新婚の奥さんと借りたのは港区の築浅の2LDKのマンション。月のお家賃は30万円を超えるいわゆる“デザイナーズマンション”でした。



 このデザイナーズマンションは、もともと分譲用として建設されたマンションで、港区でも上位のエリアに位置しておりました。またちょうどマンションの工事費が現在ほど高騰していない頃に分譲用として新築されていますので、建物の仕様も非常に高い。誰が見ても“高級”といった感じのマンションでした。

 幸せたっぷりの新婚時代に、誰もが羨む高級デザイナーズマンションに住んで半年ほどたった夏の頃、リビングの天井埋め込みの型エアコンが故障します。

 さて、賃貸マンションにお住みの皆さん、今あなたが住んでいるお家をあなたは誰から借りているのか、意識したことはありますか? あなたが誰からお家を借りているかぱっと答えることはできますか? この友人が借りた高級デザイナーズマンションは分譲用で、そこを投資用として購入した芸能会社社長が貸主でした。

 想像してみましょう。
あなたは不動産の投資家です。あなたの目的は不動産に投資して、できるだけたくさんのお金をそこから回収すること。間違ってもあなたの不動産を借りている人に、上質な住居を提供して快適に暮らしていただくことではない。たった30万円のお家賃を受け取るために数十万円をかけて天井埋め込みのエアコンを修理したいと思いますか?

 そう考えたこの貸主、芸能会社社長は、借り主である友人からのエアコン修理の依頼の電話を無視し続けました。こうして私が友人と貸主の間に入って問題が解決するまでの間、彼は暑い夏を毎月30万円払いながらエアコンなしで過ごす羽目となりました。そう、毎日、奥さんに故障したエアコンをなんとかしろと言われながら。


 と、このようにですね、クソ物件は、物件そのものの物理的な状態のみならず、“誰からその物件を借りるか”によっても発生するということを皆さんには知っておいていただきたいと思います。トラブルのときにきちんと対応してくれる安心も、多少割高なお家賃に含まれると考えて、ファンド・REIT(証券取引所に上場している、主に不動産を投資対象とした投資信託のこと)の所有する物件、大手不動産会社や大手の一般事業法人が貸主の物件をおすすめします。



 タワマンは、外部から“セレブの象徴”として見られてきた。また“階数が高ければ高いほど金持ち”などと、ヒエラルキーが目に見えやすい形になっていると想像できるだけに、「タワマン内部では血で血を洗うマウンティング合戦が繰り広げられているのではないか?」と、女たちの好奇心を掻き立てたものだ。そんな中、最近やたらと「タワマン大暴落予想」の記事が目につくようになり、タワマンに着目する者の心をザワつかせているが、全宅ツイのグル氏は、タワマンのメリットデメリットに関して、どのような見解を持っているのだろうか。

 タワーマンションのデメリットは、ほとんどありません。
それはこれまで建設されてきたタワーマンションの分譲時の抽選倍率、分譲後の中古市場での価格の上昇、また賃貸市場での賃料の高さを見れば客観的に明らかです。

 しかしながら私個人として2点だけ指摘させていただきます。1つめは、ぶっちゃけてしまいますと、タワーマンションは非常にわかりやすくシンボリックであるため、妬みや嫉妬の対象とされがちなことでしょうか。

 本当はもっと坪単価の高い低層の高級マンションはたくさん存在するのですが、タワーマンションこそ鼻持ちならないセレブたちの住まいのシンボルとしてディスられがちです。

 一定以上の、自分にも届きそうで、やっぱりちょっと届かない年収の人がまとまって同じ場所に暮らしている。それはやっぱり叩かれやすい。


 ただただ背が高くて目立ってわかりやすいということから、2000年代前半のタワマンブーム当時より、週刊誌、夕刊紙のルサンチマンとして叩かれ続けた流れがそのまま続いている印象を受けます。実際に住んでる方は、全然鼻持ちならない感じではないですし、職場に近くて便利で、立派な背の高い建物に暮らすのは気分のいいもんです。

 まあ、実際にタワーマンションに暮らしている人とそうではない人の数の比率を思い浮かべれば、如何に皆が想像でディスっているのかは理解できると思いますね。

 もう1つはタワーマンションそのものではなく、その周辺の環境です。もともとは工業エリアや未利用地だった場所を開発したケースが多く、大きな街区に同じようなタワーマンションや大規模な商業施設が存在しています。

 これは便利で清潔だといえばそのとおりなのですが、少額な資本の飲食店や個人の経営するセンスの良い商店を周辺に許容する余地がありません。
近所の銭湯に、つっかけで行って帰りに立ち飲み屋さんで一杯、みたいな生活をむならタワーマンション住まいは向かないかもしれませんね。

 タワーマンションのメリットはいっぱいありますが、ちょっとだけ。

◎都心への近さ
 豊洲なら、銀座1丁目まで有楽町線で6分。勝どきなら銀座4丁目までタクシー10分。これはすごい。貴族ではない一般人が、こんなとこ住めるんかいう話です。

◎眺望
 やっぱりいいですよ。仕事終わって帰ってきてふと見る窓の向こう景色。遮るもののない視界、潤いのある水辺の景色、たくさんのビルに灯された灯り、これぞアーバン! って感じがします。

◎シンボル性
 わかりやすい。ずばーん建ってるマンション指さして、私の家あそこ、言うんわ。タクシー乗ってもマンション名だけで通じる。大規模ゆえのスケールメリットで共用部も豪華。だれが見ても高級。わかりやすいすごさ。コンシェルジュはじめとしたサービスも便利。

◎資産価値
 2000代前半から分譲されてきたタワーマンションがどれだけ値上がりしたか。普通のサラリーマンの方でも、初期にタワーマンションを買った方は売却して2000万円ほどの利益を得た方がたくさんいらっしゃいます。また売却せずとも現在のタワーマンションの市場価格と自分が買った新築時の価格を眺めて、立派なマンションに住みながら含み益でニヤニヤできる。これは素晴らしい。



 これまでさまざまな物件を見てきた全宅ツイのグル氏。最後に、クソ物件が放つ魅力について、次のような言葉を寄せてくれた。

 不動産に関わる人たちの欲望や浅ましさ、組織の中での個人の弱さなどが垣間見られる点がクソ物件の素晴らしさです。

 細長い家の企画を見た不動産会社員は、心の中で「マジで?」って思います。でも、会社員です。会社や上司には逆らえない。「社長いいですね! やりましょう!」って言うんです。

 「もっと儲けたろう。住む人のことなんか後回しや。あと1平米でも余分に貸床を確保しろ」って叫ぶ事業主や「工事費もったいないわ。見えるとこだけきれいにしといたろ」と思うビルオーナーの払うお金と、自分の専門家としての良心に挟まれる現場の人間たちの苦悩。それらが結晶してクソ物件が生まれます。

 クソ物件とはいわば、人間の業や不動産にまつわる悲喜劇が生み出す侘び寂びが行き着く終着点なのです。

「全国宅地建物取引ツイッタラー協会」公式サイト
「クソ物件オブザイヤー」公式サイト