羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。



<今回の有名人>
「私、世間の声があまり気にならないんですよね」山崎夕貴
(Yahoo!ニュース「遠田智子のエンタメ国語辞典」インタビュー、3月27日)

 3月27日未明に、フジテレビの山崎夕貴アナとお笑いタレント・おばたのお兄さんの結婚報道が流れた。山崎アナはレギュラー出演する『ノンストップ!』(フジテレビ系)で特にコメントせず、おばたのお兄さんは「確たる情報をお待ちください!としか言えずすみません」とツイートし、結婚自体は本当だが、正式発表は後日であることをほのめかした。

 さまぁ~ず大竹一樹中村仁美や、陣内智則松村未央のように、フジテレビの女子アナが、お笑い芸人と交際結婚する前例はあるものの、売れていない芸人と交際結婚するのは、山崎が初だろう。「女性セブン」(小学館)によると、もともと山崎がおばたのファンで、おばたが『ノンストップ』(フジテレビ系)にゲスト出演したことが、交際のきっかけとなったそうだ。

 しかし、それからすぐに「フライデー」(講談社)がおばたの浮気を報じた。天下の女子アナが、格下の売れない芸人に浮気されるなんて、あり得ないが、破局するかと思いきや、交際を続行。
いろいろな番組で、芸人たちが一様に「あいつはやめた方がいい」と言うあたり、おばたはあまり人望もないようだが、山崎アナだけが知る魅力があるのだろう。

 初と言えば、そもそも山崎アナ自体が、初めてに近い、異色の存在と言えるのではないか。フジテレビの女子アナの伝統は、都会育ちのお嬢さま系リア充。だが、山崎アナは違う。「サンケイスポーツ」の取材に対し、山崎は「就職試験を受けるまで、東京に来たことがなかった」と話していた。また山崎は過去にタレント活動をした経歴もなく、さらに親が権力者ということも特にないようだ。
地方出身の普通の女性が内定を取り、フジのエースに成長するとは、時代の変化を感じさせる。

 地方出身の普通の女性が女子アナとなり、都会のお嬢様系リア充に囲まれたら、そこに同化しようとしそうなものだが、山崎アナはそれをしない。『とんねるずのみなさんのおかげでした』(同)で、山崎アナの部屋のVTRが放送されたことがあり、こたつをテーブル替わりに使うなど、生活感満載で、とても人気女子アナの部屋とは思えなかった。

 それよりも、私が山崎アナのすごさを感じたのは、「気にしない」ことである。同放送では、山崎が夕飯(ビールとたこ焼き)を食べている頃、フジの女子アナ(三田友梨佳加藤綾子生野陽子永島優美)はパーティーをしていたと紹介されたのだ。フジテレビの女子アナは「アナウンス室は仲が良い」ことを連呼してきたが、主流派が集まるパーティーに参加せず、涼しい顔でいられるのは、とかく他人と自分を比べがちな若い女性には難しいことに感じられる。
この鈍さは山崎アナの持ち味ではないだろうか。



 鈍いと言えば、フジテレビにはかつて中野美奈子というおニブの大御所がいた。中野もフジの女子アナらしくお嬢様育ちだが、中野の鈍さは「愛されると信じて疑わない」という方向性である。それに対し、山崎アナのそれは「どちらが上とか下とか考えない」といった種類のものなのではないだろうか。「東京は地方より上」とか「SNSのフォロワーが少ないのは下」というように、人には自分の属する世界に応じた暗黙のルールがあるが、山崎アナはそれを持たないのだろう(もしくは気づいていない)。

 かつて山崎アナと鮨を食べに行った際に、かかってきた電話に断りもいれずに出たと、石橋貴明が『みなさんのおかげでした』で嘆いていたけれど、もし山崎アナが石橋のことを“上”の存在だと思っていたら、こんな行動は取らないのではないだろうか。
山崎アナは、フリーアナウンサー・遠田智子のインタビューに対し、「私、世間の声があまり気にならないんですよね」と答えているが、人目や序列が気にならないタイプなのだろう。

 「人間関係の上下がわからない」ことは、今のテレビ業界ではプラスではないか。大物に対して物怖じせずに向かっていけるし、大物からいじられたり、怒られても、当の本人がけろっとしているので、パワハラ臭がしない。つまり、「上下がわからない」とは、「バカにされ上手」と言い換えることができる。「バカにされ上手」は仕事にも恵まれ、かつ日常生活の最大の敵、“嫉妬”を交わすことができる超優秀な存在である。

 山崎アナは4月から『とくダネ!』(同)に移籍する。
同インタビューで山崎アナは、初代MCである佐々木恭子アナに「(恋愛を)これだけオープンにしていて、もし別れてしまったら、バツイチみたいなもんじゃないですか」と相談したところ、「『山崎は別れてもネタになるから』って言われて、楽になりました」と語り、先輩に感謝している。先輩・後輩のいいエピソードに水を差してなんだが、これ、軽くバカにされていないだろうか。もし交際相手が大物芸能人だったら、別れた後、ネタにはできないはずである。売れているとは言い難い、女グセの悪い芸人だから別れても当然、嫉妬されない相手だから、みんなが味方してくれる……と言っているように、私には聞こえるのだ。

 「損して得取れ」という諺があるが、ヘタなプライドを捨てて、あえてバカにされて多くの物を得る。山崎アナの戦術は、一般人の世界でも有効ではないだろうか。


仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。
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