「万病に効く」北朝鮮で作られ始めた怪しい注射薬 (2025年1月11日)

北朝鮮がまた妙な健康食品を生み出した。日本海に面する北朝鮮東海岸では、ズワイガニなど様々な種類のカニが大量に取れる。これを日本や中国などに輸出して外貨を稼ぎ出していたが、国際社会の制裁で販路が閉ざされてしまった。カニなどの甲殻類の殻に多く含まれているのがキトサンだ。様々な効果が知られ、日本でも関連の健康食品が多く販売されている。北朝鮮の一部科学者が、これを使った注射薬を作り、闇市場で販売しているという。米政府系のラジオ・フリー・アジア（RFA）が報じた。その舞台となったのが、日本海に面する北朝鮮第2の都市、咸興（ハムン）だ。北朝鮮では1990年代、金日成総合大学と国家科学院咸興分院の有機化学研究所を中心にしてキトサンの研究と商品開発が始められたが、後の大飢饉「苦難の行軍」で資金難に陥り、プロジェクトそのものが中止に追い込まれた。北朝鮮は、今に至るまでキトサンの自国生産ができずにいる。だが、咸鏡南道（ハムギョンナムド）の情報筋によると、咸興市内の市場で、キトサン注射薬が売り出されている。卸値は1本2000北朝鮮ウォン（約14円）で、商品を他地方へ運ぶ「タルリギ」という商売を営む商人の手によって全国に出荷され、各地で2倍の値段で販売されている。情報筋は、この注射薬を平安南道の徳川（トクチョン）まで運び、1本1万北朝鮮ウォン（約70円）で現地の商人に卸している。徳川と言えば炭鉱地帯だが、現地の病院が、肺がんになった元炭鉱労働者にこの注射を行ったところ、「非常に効き目があった」との噂になっているとのことだ。なお、キトサンの抗がん剤としての研究は、日本などでも行われており、エビデンスを欠いた荒唐無稽なものではないようだ。このキトサンだが、咸興科学院の科学者が自宅で製造したもので、キトサンは貝殻から抽出したものだという。「科学者でなければ（製造には）手が出せない」（情報筋）平安南道（ピョンアンナムド）の情報筋によると、現地で売られている注射薬のキトサンは貝殻やカニの殻から抽出されたもので、海に面していて、有機化学の技術者がいる地域でこそ製造が可能だ。つまり、海に面していて化学工業が発達し、理系の教育機関が多数存在する咸興だからこそ成立した「地場産業」「家内手工業」ということだ。ちなみに咸興では、同様の理由で覚せい剤の製造、販売が行われている。故金正日総書記の命令で、外貨稼ぎプロジェクトの一環として始められたものだが、ノウハウが流出し、横流しにより国内にも流通したことで、薬物中毒者を量産する結果を生んでしまった。カニの殻のみならず、貝殻からも抽出したという咸興製のキトサンだが、その効能、検証されておらず、実際に効果があるのかは不明だ。甲殻類アレルギーを持つ人に限って、致命的なアナフィラキシー・ショックを引き起こすリスクがあるが、それでも覚せい剤よりは遥かにマシだろう。さて、北朝鮮の科学者がキトサンを作り始めたきっかけは、コロナ鎖国だった。「キトサン注射薬は、国境が完全に封鎖されて医薬品が（国外から）入ってこなくなり、高熱と肺炎治療薬が切実に求められる中で、咸興の化学者たちが自宅で密造を始めた」（情報筋）彼らは国からじゅうぶんな配給を受け取れず、生活に困窮していたため、様々なものを製造、販売してなんとか暮らしていた。その中の商才に長けた者が、「キトサン注射薬はコロナ治療薬」との触れ込みで市場で販売するようになったが、いつの間にやら万病に効く薬との噂が立ち、他の化学者も次々に参入したという。ここまでくれば、輸出を考える貿易会社も現れるかもしれないが、北朝鮮製健康食品の主な輸出先だった中国の消費者は、もはや北朝鮮製品に対していいイメージを持たなくなっている。プロパガンダ用に使用されるかもしれないが、実際に輸出されて外貨稼ぎにつながることはないかもしれない。ちなみに咸興で1ドル（約158円）は、今月3日の時点で1万9000北朝鮮ウォンで取引されており、12月中旬の4万北朝鮮ウォンからかなり値を戻し、ウォン高傾向にあると、情報筋は伝えている。

「万病に効く」北朝鮮で作られ始めた怪しい注射薬

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