北朝鮮は、人を雇うこと自体を違法とする、世界でも極めて異例の国だ。政府は取り締まりを強化しているが、その効果はほとんど見られない。

韓国のシンクタンク「サンド研究所」が運営するメディア「サンドタイムズ」が報じた。

北朝鮮内部の情報筋によると、平壌の富裕層の家庭で住み込みで働く家政婦の月給は30万~50万北朝鮮ウォン(約1436円~2393円)にのぼる。これは、国が定める国営工場や企業所の給与のおよそ10倍だ。地域の人民班長(町内会長)には「親戚が手伝いに来ているだけ」と偽り、体裁を整える。

こうした個人による雇用行為は違法とされ、当局の取り締まり対象となっているものの、現実には建設現場、農村動員、金鉱、家政婦、介護・看護など、さまざまな分野に広がっている。

たとえばマンションの建設現場では、各機関が担当区域を割り当てられると、住民から資金を集めて建設経験者や技術者を雇用し、工事を進めている。
「経験も技術もない職員が作業するより、専門家に任せた方が合理的だ」と判断されているのだ。

農村支援では、いわゆる「代打労力(代理労働)」が定着しており、自分の代わりに金を払って他人を動員に出すケースが増えている。金鉱でも月給20万~30万ウォン(約957~1436円)で労働者を雇うことが一般化している。

平壌のある情報筋は語る。

「職場に出ても、給料だけではとても暮らしていけない。だから結局、人材市場に出るしかない」
「働いて金を稼ぐのが“搾取”だというなら、働かせるだけ働かせて給料を出さない労働党は何なんだ」

冬が近づくと、練炭づくりの仕事も増える。

平壌では1トン分の練炭を作って運ぶと約2万ウォン(約98円)の日給が支払われる。

他にも、高層マンションでの荷物運び、家庭菜園の代理管理、産後の母親のケアなど、労働の種類は多様化している。ベビーシッターや介護士であれば、日給1万~1万5000ウォン(約48~72円)が一般的だ。

ある住民は語る。

「こんな形でも稼がないと、生きていけない」
「搾取と言われようが、仕事が続くことの方がずっと大事だ」

北朝鮮当局は「搾取を根絶する」として大規模な法改正に踏み切ったものの、人を雇うという行為自体を止めることはできていない。

ある北朝鮮問題の専門家は次のように指摘している。

「北朝鮮当局は人民に国家への献身を求めているが、最低限の生活さえ保障していない。そのため、住民たちは自力で生計を立てるしかなくなっている」
「政権にとって、統制不能な個人労働市場の拡大は脅威だろうが、それを生み出したのは他でもない自らの体制の矛盾だ」

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