北朝鮮の料理は伝統的に辛さ控えめの薄味で、見た目にはあまりこだわらないのが一般的だった。だが、最近では中間層の若い女性たちの間で、料理に対する価値観が大きく変化している。
中間層家庭では、同じジャガイモや豆もやし、豆腐といった食材を使っても、世代によって調理法が大きく異なるという。両江道のデイリーNK内部情報筋は語る。
「50代半ばを過ぎたアジュンマ(おばさん)たちは、ジャガイモのおかずは唐辛子粉をたっぷり入れて真っ赤にしてこそおいしいと言うが、30代の若い女性たちはジャガイモをさっと茹でて、そこに赤いピーマンと青唐辛子を混ぜて彩りよく仕上げたおかずを作って食べている」
「年配の女性たちと違い、若い女性たちは味よりも見た目の色合いが大事だと言う。若い女性たちは、年配女性たちの伝統的な調理法を『昔風』『ダサい』と見なして、あからさまではないにせよ軽視する傾向もある」
北朝鮮では、誕生日などの特別な日に家庭で客をもてなす文化がある。料理の彩りや見た目が“家の格”を表すという意識が中間層に浸透し、新しい調理法の習得が一種のステータスになっている。
とりわけ人気を集めているのが「中国式」と呼ばれる料理スタイルだ。実際に中国に渡航した経験のある人から調理法を学ぶ若い女性も多く、訪中経験が料理のスキルを左右するという風潮すらある。
「若い女性たちは中国式のやり方で新しい副菜を作りたがるが、年配の女性たちは『中国風がそんなにおいしいわけがない』と冷ややかな反応を見せる。作り上げた料理からして違いがはっきり出るので、世代によって感覚がまるで違うということを、上の世代も若い世代もお互いに強く感じている」
こうした変化の背景には、中国の映像作品の流入がある。韓国のコンテンツは取り締まりが厳しいため、多くの家庭では中国ドラマや動画を通じて調理法やライフスタイルを自然に吸収している。
「韓国のものは摘発された場合の処罰が厳しいため、人々は中国のコンテンツの方をより多く求めるようになり、それによって中国の映像文化に触れながら、中国的な生活様式を自然と受け入れるようになっている。若い女性たちが中国式の調理法で新しい副菜を作るのも、まさにその影響だ」
伝統よりも「洗練された中国式」が格好良いとされる風潮が、若い世代に急速に広がっているのだ。
「最近はジャガイモのおかずをちょっと変わった感じにして出すだけでも『垢抜けた人』、『町中育ちの人』なんて言われる。だから20~30代の若者たちは、中国式の生活様式や文化をより積極的に取り入れようとしている」