北朝鮮における外部文化の流入、とりわけ韓国ドラマや音楽といった韓流コンテンツの消費は、長年にわたり当局の最も厳しい取り締まり対象の一つとなってきた。体制はこれを「思想汚染」とみなし、青年層を通じて拡散することを強く警戒している。

2021年に制定された《青年教養保障法》でも、不純な出版物や映像・音声の流入、複製、視聴を明確に禁じ、摘発された場合には重い処罰が科される。また北朝鮮でも年々、所有率がたかまっているスマホには独自機能を搭載し、韓国文化を遮断しようとしている。

しかし、現実にはこうした法律や取り締まりが若者たちの好奇心を完全に抑えることはできていない。

デイリーNK内部情報筋によれば、北朝鮮の青年たちは自分たちを「ネズミ」、取り締まり員を「ネコ」にたとえている。どれほどネコが敏捷でも、すべてのネズミを捕まえることは不可能だという認識だ。この比喩は、日常的に行われる街頭検閲や家宅捜索を前提にしながらも、若者たちが依然として韓流を楽しみ続けている現状を端的に示している。

具体的な回避策として、彼らは「カモフラージュ用USB」と「実際の保存媒体」を使い分ける。取り締まり員の目には、USBに収められた北朝鮮映画や歌が確認できれば十分であり、それ以上の検査を深追いすることは少ない。その隙を突き、真に違法とされるコンテンツは指先ほどの小さなSDカード、通称「ネズミカード」に収め、体の奥深くに隠し持つ。小型で見つかりにくいことから、SDカードは取り締まり回避において最も有効な手段となっている。

さらに注目すべきは、青年同士の間に形成される「信頼と責任のネットワーク」である。摘発に遭った場合は自分が責任を負い、仲間には絶対に迷惑をかけないという暗黙の約束が交わされているという。これは体制が強制する忠誠心とは異なる、相互扶助に基づく結束であり、コンテンツを媒介に新しい連帯が生まれているともいえる。

取り締まりが強化されるほど、青年たちはより慎重で工夫を凝らす。検閲が近づくと合図を交わし、取り締まり員を「ネコ」と呼んで警戒を共有する。まるで密やかなSNSのように、噂や注意が口伝えで広がっていく。こうした行動は、当局が望む「思想の統一」とは正反対の現象であり、統制の強化がかえって若者の創意と抵抗を育んでいることを示す。

ネズミを自称する若者達と金正恩のネコの攻防は続くだろう。当局が取り締まりを強めるほど、青年たちは新たな回避策を編み出す。完全統制は幻想にすぎず、むしろ「禁止」の叫びは若者たちの関心を一層刺激する。閉ざされた社会における文化流入の不可避性と、若者のしたたかな適応力を示す象徴的な事例といえる。

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