北朝鮮当局が今月6日、金正恩総書記の中国訪問を描いた50分の記録映画を国内で公開した。映画は、金正恩氏が習近平中国国家主席やロシアのプーチン大統領と並び立ち、多国間外交の舞台で活躍する姿を強調。

体制と最高指導者の威光を住民に印象づける狙いが明白だった。しかし、実際の住民の受け止めは一様ではなく、むしろ挫折感や生活改善への期待といった複雑な反応が交錯している。

デイリーNKの内部情報筋によると、咸鏡北道会寧市の住民たちは映画を見た後、「中国は核兵器も現代的兵器も備えながら国民生活も豊かにしているのに、我々はなぜ苦しい生活を続けなければならないのか」と挫折感を表した。中国の高度な兵器や都市の発展した姿が映し出されるたび、北朝鮮との落差が痛感され、自国の核開発政策が生活を犠牲にしている現実への不満が噴き出した形だ。

両江道恵山市でも同様の空気が漂った。住民の一人は「中国のように住民生活もある程度保障されつつ軍事大国を誇るならどれほど良いか」と述べ、核武力を誇る一方で日常生活は困窮を強いられる北朝鮮の現状を嘆いた。また、記録映画に登場した中国の近代化された兵器群を見た住民からは「我々が核強国と呼ばれるにはまだ遠い」と冷めた評価も出ている。

一方、平安北道新義州ではある種の期待感も広がっている。住民らは金正恩氏の訪中を「朝中の伝統的友好関係の復元」と捉え、貿易再開や経済協力拡大を望む声を強めている。ある住民は「ロシアとの協力は国家には有利でも、住民生活には役立たない。中国との取引こそ我々の生活に直結する」と語った。実際、過去には中国からの物資流入が市場を潤し、個人の生計を支えてきた歴史がある。

このため、新義州では「国家にとってはロシア、住民にとっては中国」という言葉が飛び交い、住民たちは国境での通関緩和や物流拡大など具体的な変化を切実に待ち望んでいる。

記録映画の公開は当局にとって「外交的威光」を誇示する意図が強かったが、住民の間ではむしろ「中国との差」を直視させる結果となり、失望と同時に中国依存への期待を高める契機となった。

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