『週刊ダイヤモンド』1月14日号の第1特集は「仕事・勉強に効く『集中力』&記憶術・速読術」です。長時間労働の是正や、仕事と生活のバランスを重視する動きの中で、企業も個人も、集中力を高めて仕事の効率を劇的にアップさせる必要に迫られています。
「金魚の集中力は9秒しか続かないとされています。では、現代人の集中力はどのくらい続くと思いますか」
こう質問されたら、あなたは何と答えるだろうか。
正解はなんと8秒。金魚よりも短いのだ。このデータは、米マイクロソフトのカナダの研究チームが2015年5月に実際に発表したものだ。約2000人の参加者の脳波などを測定した結果で、2000年は12秒だったヒトの集中力の持続時間が、13年には8秒まで短くなってしまったという。
なぜここまで現代人の集中力は短くなってしまったのか。最大の要因は、IT技術の進化に伴う環境の変化である。
まず、われわれを取り巻く情報量そのものが、飛躍的に増大した。米調査会社IDCによれば、1年間に生み出されるデジタルデータ量は、2000年の62億ギガバイトから、13年は4.4兆ギガバイトと約700倍に膨れ上がった。今後も増え続け、20年には、44兆ギガバイトまで膨らむと推定されている。
さらに、LINEやツイッターをはじめとする、SNSの新たなコミュニケーション手段が登場したことも、集中力の持続時間の低下に拍車を掛けた。
「情報の豊かさは注意の貧困をつくる」。ノーベル経済学賞を受賞した知の巨人、ハーバート・サイモンが1970年代に看破したように、身の回りに溢れかえる情報が人間を振り回し、集中力を奪っているのだ。
情報化社会において、集中力の低下はもはや止められないのだろうか。いや、諦めるのはまだ早い。最近の研究によって、集中力は脳の働きと深い関係があることが分かってきた。さらに、脳には可塑性(経験に応じて変化する性質)があることも明らかになってきている。つまり、脳の機能は鍛えれば高まる可能性があり、集中力も鍛えることが可能なのだ。
誰でもどこでも実践できる!集中力アップ講座
スポーツ用品メーカーのミズノで15年間、ウエアの開発に携わった森健次朗氏は、水泳の北島康介選手やハンマー投げの室伏広治選手など一流のアスリートを間近で見てきた。そしてあることに気付く。極限の緊張状態となる本番前に、彼らは皆、リラックスするためのルーティンを行っていたのだ。
両肩を上げてからすとんと下げて深呼吸。
「彼らが一流のアスリートだから高い集中力を持っていたのではない。集中力を引き出すコツをつかめば、誰でも深い集中状態をつくり出すことができるはず」と森氏は指摘する。では、具体的にどうすれば集中力を引き出すことができるのか。
ポイントは、脳と体の働きを理解して利用することだ。特集では、集中力を高めるための「六つの習慣」を紹介しているが、ここではその一つ、「場所」についての習慣を説明しよう。
自分の席に座って仕事や勉強を始めてはみるものの、ついついスマートフォンを見てしまったり、ちょっとお菓子を食べたりしてしまう。そんな経験はないだろうか。
仕事や勉強をする机でスマホを見たり物を食べたりすると、脳は「机=スマホを見て食事する場所」として記憶してしまう。それ故に、いざ席についてもやる気が起きないのだ。
この状態から抜け出すには、「机=仕事や勉強だけをする場所」という新しい記憶を脳に上書きする必要がある。