ときどき無性に食べたくなるものの、食後の罪悪感を思って躊躇(ちゅうちょ)するのがファストフード。手軽に食べられてチープ。

それ以上に、高級品にはない「おいしさ」があるのが憎いところだ。アラフォーとなるとさすがに健康のことを考えて手が出にくくなるが、その距離感を中年男性たちはどのように考えているのだろうか。(取材・文/フリーライター 武藤弘樹)

ファストフードに育てられた少年たち
中年を迎えて何を思う

“ファストフード”の“ファスト”は、“first”ではなく実は“fast”だそうで、注文したらサクッと出てきてサクッと食べられる食べ物のことを指す。これが基本的な定義だが、ここから派生してジャンクフードを意味することもある。

 ファストフードと聞けば、まず真っ先に思い浮かぶのがハンバーガーチェーンだが、牛丼、ラーメン、ピザなども広義ではファストフードである。たまに無性にジャンキーなものを食べたくなる人は多かろうし、安価でサクッと食事が済ませられるのがファストフードの素晴らしいところだが、健康が心配され始める中年男性にとって、ファストフードは「敵」である。

 最近は高校生がスターバックススタバ)を利用していることも珍しくなく、すごい時代だとおじさん的見地から思わされるが、スタバよりかはマクドナルドの方が中学生・高校生をザクザク発見できる。

 やはり安くてジャンキーなものを歓迎する若者にはファストフードが好ましく、筆者もしょっちゅう行くが、しかしハンバーガー系だけはどうしても今ひとつと思うマクドナルドについて「あそこのハンバーガー系がチェーンの中で一番おいしい」と言う人もそれなりにいて、あれは子どもの頃からマクドナルドの味で育ったから、舌がそのように慣らされているのではなかろうか。

 この推論の真偽は別にして、こうした推論を人にさせてしまうほど、ファストフードと国民のつながりは深いのである。

 それほどまでに強い紐帯があったファストフードと、人はいつしか距離を置くようになる。加齢とともに体がジャンクフードを受け付けなくなっていく、処理しきれなくなっていくのである。

 食べることによって体調不良を起こしたり、「体中の血液がドロッとしていくのではないか」といったネガティブな思いに取りつかれたりする。

サンタクロースが実在しなかった真実に気づくがごとく、人はファストフードと離れていくことでひとつ大人になるのである。

 前置きが長くなったが、現代の中年男性はかつて愛したファストフードとどのような距離感で向き合っているのか。いくつかのサンプルを紹介したい。

背徳感をたのしむ
限定された状況における利用

 Aさん(37歳男性)は毎年会社の健康診断でイエローカードをもらい続けている超メタボ体形の明るい既婚者である。結婚1年目だが趣味はキャバクラ通いで、そこは妻の了解を得ているらしかった。

 Aさんがキャバクラに行く時、キャバクラ嬢にちやほやされるのと同じくらい楽しみにしているのが帰り道に食べるラーメンであった。

「独身時代はほとんどラーメンが主食だった。でも今、ラーメンはこの時しか食べない。付き合っている時から妻には健康のことを言われ続けていて、そこに関しては本当に厳しい。キャバクラに行くことよりラーメンを食べることの方が、妻の基準だと罪が重い。妻は怒らせると怖いので、ラーメンを控えるなどして健康に気を遣うようになった。

 キャバクラを許してくれている妻はものすごく寛大だと思うが、でも自分も本当によくラーメンを我慢していると思う。

だから月イチくらいならご褒美で食べたって許してほしいなと。もちろん妻には秘密だけど。

 本当はニンニクをたっぷり入れたいけど、においでばれそうだから我慢する。出張で1泊以上する時はニンニクを解禁させてもらっている」(Aさん)

 夜の街、何かの締めくくりに食べるラーメンには味以上のおいしさがある。Aさんが食す月に一度の一杯は、背徳感やそれまでの我慢などがあいまって極上のうまさであろう。

 ファストフードと背徳感は結びつきやすい。Bさん(40歳男性)は背徳感の向こう側に自分だけの景色を見いだしている。

「飲みの帰りはラーメンをはじめ、ジャンキーなものを必ず食べて帰る。若い頃からずっとそうしてきて、5年くらい前からメタボと診断されるようになったけど、そこで食べるのをやめるのは何かに負けた気がしてすごく嫌だった。

 よく『見た目が若い』と言われ、自分でもそう思うけれど、それは自分の場合は心持ちによる部分が大きいと考えている。だから、年齢に屈して若い頃から続けてきた習慣を断ち切るのは、若さを手放すことにつながる気がする。

 健康のことを考えるとジャンクフードは当然控えなければいけないが、『今ファストフード食べたらいけないよな』という自分の中の良識を、あえてぶち壊していく気概をこれからも失わずに持ち続けたい」(Bさん)

 Bさんにとって、「暴食は悪」という良識に屈することは若さからの撤退である。

背徳感ゆえのうまさに加え、背徳感(罪の意識)が強ければ強いほど克服するファイトが湧いてくるので、積極的にファストフードを摂取するループが形成されており、Bさんはあと何年その調子で闘い続けるのかというところである。

変わっていく距離感
ファストフードとの付き合い方

 Cさん(38歳男性)は隙あらば即、ファストフードを食べようとする。スマホには各種チェーンのアプリが網羅されていて、どの駅にいけばどういった選択肢があるのかがほぼ完璧に頭の中に入っている。

 既婚者で基本的に食事は家で食べるが、ひとりで行動している時は、もう自動的に足がファストフードに向かっている。休日は家族を巻き込んでファストフードへと赴く。うまい焼き肉店や評判のイタリアンレストランなんかにはまったく興味がなく、ひたすらファストフードを渇望している。

 こう聞くと暴食の徒だが、ファストフードの利用は週に平均2~3日らしい。体形はスマートで、成人病とは無縁の健康体である。

「ジャンクフードが大好きで、食べてもあまり太らない体質なのをいいことに食べまくってきた。今も好きな気持ちは変わらないけど、距離感は昔と今で違う」(Cさん)

 あるきっかけがCさんに変化をもたらした。

「休日、起きぬけにうどんチェーン店に行って、揚げ物と天かすをふんだんに入れた一杯を堪能した。つゆが脂でドロドロになるんだけど、それがまたうまい。

 しかし満足して帰宅した頃、おう吐と猛烈な腹痛に見舞われた。救急車を呼ぼうかと思ったくらい苦しくて、数十分トイレで格闘してようやく落ち着いた。原因は確実にさっき食べた脂まみれうどん。舌がおいしいと感じても、体がついていかなくなっている年齢になってきたのだと初めて気が付いた。

 昔は思うまま好きなだけ食べていたジャンクフードだったが、それ以降は胃の様子と相談しながら、調子に乗らず注文するようになった」

 気持ちに体がついていかない現実を突き付けられ始めるお年頃である。

>>(下)に続く

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