地域に住む「親」を選ぶことでもある
公立小学校の説明会の会場で、瀬尾真奈美さん(仮名)は学校の様子以外に気を払っていたことがあった。その視線は、会場に来た親に向けられていた。
朱に交われば赤くなる――。公立である以上、カリキュラムや教員に大きな差はない。だが、その地域に住む家庭は、学校の環境に大きな影響を与える。教育環境を選ぶうえで欠かせないのが、親が子どもの教育をどこまで熱心に考えている地域かである。
瀬尾さんはそれを十分に理解していて、会場に来た親の様子を見ていたのだった。結局、瀬尾さんの子どもは超名門私立小学校への進学を果たしたため、公立に進むことはなかった。だが、彼女のような親は、「熱心な親は熱心な親を引き寄せ、子どもたちはその影響を受ける」という環境の力をよく理解しているのだ。
親の熱心さを地域で見極めるのは難しいが、その1つの方法として、年収の高さがあるだろう。第1回の記事(東京・小学校区「教育環境力」ランキング【主要30自治体トップ3】)でもお伝えしたように、学力の高い地域と、その地域の世帯年収や学歴とは関係がある。従って、年収の高い地域ほど教育に熱心な親が多い可能性が高いといえるだろう。
だが、年収に関する細かな公的データを手に入れるのは困難だ。そこで、われわれは今回、小学校区別の推計モデルをつくることにした。まずは、5年ごとに行われる総務省の「住宅・土地統計調査」(2013年)を基に、自治体別の世帯年収を推計した。
そこで図にあるように、推計年収をランキング形式で示した。この調査は、年収を9階層別にして世帯数を公表しているため、推計値ではあるものの、比較的実績値に近いものといえるだろう。
トップ3は千代田、港区、中央区推計年収ランキングを紹介!
東京都内の自治体における推計世帯年収トップは、841万円の千代田区だ。オフィス街や官公庁中心の地域であるため、居住世帯数が約2.8万世帯と少ない。住める場所も限られているぶん、地価が高く、高年収世帯が比較的多く住む。
2位は770万円の港区で、高年収ビジネスパーソンが住むエリアだ。実際、年収1000万円以上の世帯数が全体に占める比率「高年収世帯比率」が23.6%であり、トップだった。
3位は720万円の中央区で、勝どきや月島等の沿岸部では高級タワーマンションが相次いで建設されている。また、4位の渋谷区や5位の目黒区は、都心への通勤が便利で、閑静な高級住宅地もあり、人気が根強い。
以上が自治体別の結果であり、それを今回、小学校区にまで落とし込んで推計モデルを作成した。作成方法については関連記事(東京・小学校区「教育環境力」ランキング【全49市区・推計年収ベスト3】)で詳しくふれるが、先の図には上位自治体の小学校区別ベスト3もあわせて掲載した。
千代田区1位の富士見小学校や2位の九段小学校区は、飯田橋駅や市ヶ谷駅の南に位置している。皇居に近く、学校等の公共施設も数多く、一般の世帯がなかなか住める地域ではない。従って、高級物件に入居できる年収の高い層でなければ住めないのである。
渋谷区では、渋谷駅と広尾駅の間に位置し、閑静な住宅街の広がる常磐松小学校区と広尾小学校区がトップ2となった。渋谷センター街を抜けた先にある神南小学校区は3位であり、ここはブランド校区の1つでもある。
港区をみると、品川駅から東京湾沿いに進んだ地域の港南小学校区が1位だ。2位は、お台場中心地に位置する港陽小学校(別名:お台場学園)区で、3位は芝浦小学校区だ。いずれも、東京湾沿岸にある高層マンションの立ち並ぶ地域である。
目黒区は、池尻大橋駅そばの東山小学校区がトップ、さらにそこから渋谷の高級住宅地(南平台や松濤)側に進んだ菅刈小学校区が2位となった。文京区は、東京大学と目と鼻の先にある本郷小学校区が1位だった。
このように自治体によっても地域によっても年収の差があり、それは教育環境力にも影響を及ぼしている。特集「東京・小学校区『教育環境力ランキング』」では、推計年収以外のデータも用いて小学校区ごとの教育環境力に迫っている。先に紹介した推計年収ランキング記事では年収の金額も記載しているので、これらもご参照いただきたい。