フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さんの元へは、多くのフィリピン移住希望者がやってきます。
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すべては子どもの健康と将来のため 日本から3組の母と子どもたちが退職ビザの取得のためにフィリピンを訪問された。総勢8名のいわゆる母子疎開だ。目的はずばり、「放射能汚染が蔓延する日本に、もはや住む場所はない」と語る。
到着早々、全員がはじめてのフィリピン訪問だと聞いてその勇気と決意に驚いた。なんの予備知識もない国、それも3Kの悪名高い(?)フィリピンで永住することもいとわないという。すべては子どもの健康と将来のためなのだ。
5人のお子さんを連れて、総勢8名での健康診断や銀行口座の開設手続きなどの申請準備に予想外の時間がかかった。どこかに訪問するたびに、まずおしっこでトイレ探しに追われ、喉が渇いたとミネラルウオーターの調達に走らなければならない。
到着日の午後は書類の準備と健康診断、そしてPRA(フィリピン退職者庁)のパーティに参加。翌日は終日マニラ見物。そして3日目は銀行手続きとビザ申請、モール・オブ・エイシア訪問と、連日夜10時すぎまでの強行軍だった。
マニラ見物の最初の訪問先は、ラスピニャスのサウスビラ・インターナショナル・スクール。母子疎開の先輩の案内で、子どもの教育環境とオハナ・コンドやイリジウムなどの住宅環境を視察。先輩のお勧めで、SMサウスモールのMary Graceイタリアン・レストランで昼食をとる。しゃれた店構えは日本のレストランに勝るとも劣らず、それで値段は半分以下とお母さんたちは大満足だ。
次に向かったのがフォートボニファシオ・グローバルシティとアメリカンセメタリー。広々とした芝生に子どもたちはおおはしゃぎ。そしてマニラ・インターナショナル・スクールや日本人学校の立派さにびっくり。インターナショナル・スクールの学費、年間160万円にはためいきをつく。
彼女たちは、放射能汚染で住めなくなった日本を逃げ出す一般庶民だから、企業の援助でこのような学校に通う駐在員子女とはちょっと事情が違う。将来、ご主人も日本に住めなくなると生活の糧を失ってしまうリスクもあるから、財布の紐は固い。フィリピンで外国生活をエンジョイしようなんて気はさらさらなくて、まさにサバイバルの気概を持っている。フィリピン生活の現状に一喜一憂
参加者のおひとりがクリスチャンということで、イントラムロスやチャイナタウンの教会群に興味を持たれていた。
かのフィリピン近代史の英雄、先代のアキノ元大統領の葬式が行なわれたのがクリスチャンの総本山、マニラ大聖堂だ。残念ながら中には入れなかったが、遠くから記念撮影。
そして次に向ったのがチャイナタウン。その一角のビノンド教会は天井の絵画が有名だそうで、そう思って見るとなかなかユニークで見ごたえがある。
キアポ教会周辺の人の洪水にはさすがに緊張、お母さんは子どもたちの手を固く握り締める。その辺をうろつく野良犬に恐怖感を覚えるのは、フィリピンの犬は みな狂犬病にかかっていると信じているからだ。一方、一山5ペソ、10ペソで売っている野菜に、「これなら生活していける」と確信する。
このあたりですでに暗くなりかけていたので、世界遺産サンセバスチャン教会は割愛して、本日のフィナーレ、マカティのアヤラ・トライアングルの電飾ショーに向かった。
ちょうどクリスマスの時期で、マカティの渋滞は半端ではない。
エレベーターで上がって外に出ると、まさに電飾ショーが始まったところ。クリスマスソングにあわせて公園の木々に取り付けられた電飾が点灯する様子に、みな感激だ。
8時を回っていたが、貪欲なママたちはさらに大型ショッピングモール、グリーンベルトに繰り出す。ぐるっと一回りして、名古屋から出店している MA MAISONのトンカツを試食。わざわざフィリピンに来てまで日本のトンカツを食べることはなかろうと躊躇されていたが、食材が日本からのものでは ないことを確認してOKとなった。
唯一日本から持ってきているというソース等には皆さん手をつけなかった。ジャパニーズ・ライスと表示されていることに敏感に反応していたが、一口食べて、「こんなまずいご飯が日本から来ているはずがない」と確信し、安心して口に運んでいた。
そこのトイレで見つけたのが、モール・オブ・エイシアで和民(わたみ)が開店したというお知らせだ。名前の元祖であるこの私を追っかけてフィリピンに出店するとはけしからんと思うが、いずれ試しに食べてみたいと思う。
翌日、PRAでのビザ申請を無事に終えて、モール・オブ・エイシアに向った。もちろん、まずはトイレ探し。そして、花火があがるマニラ湾側に急 ぐ。途中、スケートリンクを見て、「なんで~~」と思わず絶句。広大なモールにあふれかえる人を見て「日本よりも都会じゃん」と思わず声をうならせてい た。
花火見物を満喫して食事。屋内に9人が座れる席がないので外のテーブルに座ったが、けっして暑くはないし快適だ。
ビール好きの皆さんとまずは乾杯。「今時、放射能を浴びる心配をしないで屋外で食事ができるのがうれしい」と、まさかの感想をもらす。皆さんは決して東北や関東から来たわけではないのだが、「いずれ瓦礫の焼却などで全国に放射能汚染は広がり、日本中が放射能汚染地域になる」と信じている。
モール・オブ・エイシアは全面的にクリスマスの装飾が施され、若者たちが闊歩している。
(文・撮影/志賀和民)