マルハニチログループのアクリフーズ群馬工場で製造した冷凍食品から農薬が検出された問題は、1月25日に従業員の男が逮捕され、久代敏男・マルハニチロホールディングス社長らが引責辞任を発表するなど新たな展開を見せた。容疑者は逮捕されたものの、具体的な混入経路や動機などはまだ明らかになっていない。

 回収対象品目640万点のうち、1月21日時点で85.9%が回収された。厚生労働省によると、商品との因果関係はいずれも不明ながら、該当商品を食べたことによる健康被害が疑われるとして各自治体が公表した事例が2799人に上った。 マルハニチロHDは回収費用35億円の計上や事件に伴う減産などで、14年3月期決算を当期利益で予想比35%減となる下方修正を発表。

工場再開の見込みは立っておらず、 さらにブランド全体の毀損による売上げ減などで、一連の事件の影響がどこまで広がるのかは予断を許さない。

じつは思わぬところで影響が出始めている。プライベートブランド(PB、自主企画)商品の製造者名の記載についてだ。

 今回、回収対象となった49品目のうち20品目がPBで、うち8品目にアクリフーズ群馬工場の記載が無かった。「これが回収遅れの原因につながったのではないか」という指摘がでて、森雅子・消費者担当大臣が「消費者、事業者の御意見を聞きながら、製造者の表示制度のありかたを見直していく」と発言したのだ。

 加工食品には「製造者名」または「販売者名」の記載が、食品衛生法やJAS法で求められている。販売者名のみで製造者名の記載を省略する場合は、あらかじめ製造工場を届け出たうえで、製造者を表すアルファベットと数字の記号を製品に表記することが必要となる。これが「製造所固有記号制度」だ。

 製造者名が直接記載されていなくても、記号で調べればわかる仕組みになっている。

 しかし、「消費者は、記号を見ただけではその商品がどの製造者によって作られたのかすぐにはわからず、今回のように一刻を争う事態になったときに、対応できない」と消費者団体等が以前から指摘していた。

15年までに表示義務化か

 森大臣の指示を受けて、消費者庁ではこの制度の改定に踏み込む。現在、消費者庁では、13年6月に成立した食品表示法(食品衛生法、JAS法、健康増進法の3法での食品表示にまつわる法律を統合した法律)の15年の施行に向け、加工食品の表示の細目ルールを決めている最中。このルール作りの中で、製造所固有記号制度についても、「記号だけではなく、製造者や製造工場についても、何らかの形で表示する」方向で検討する見込みだ。

 実はこれまでも、「PBに製造者名を表示するか、しないか」は、日本の小売業界内で激しく対立してきた。

 PBで先行した欧米では、「製品の販売責任は販売と企画を担当した小売りが持つ」という意味合いで販売者名のみが記載されているのが一般的。日本では、イオンや西友などはこの方式を採る。

 一方、セブン&アイや生活協同組合などは、販売者として、製造委託先名を記載している。情報開示の面から表示すべきという考えである。

 現状の規制ではどちらでもよく、小売企業の自主判断で、併存している。

 非表示派は、「“ダブルチョップ(小売り名と製造者名を併記すること)は、販売責任を製造者に押しつけるもので、PBと呼べない」と非難してきた。

 これに対して、表示派は、「流通業界のさまざまな方からご意見をいただいたが、なによりもお客さまから製造者名を知りたいというニーズが強かったので、採用した。

今回のような事故の際、この方式は役に立つ」(鎌田靖・セブンーイレブン・ジャパン取締役)と言う。

 ただしイオンでも今回の事件を機に、「PBの企画・販売に責任を持つという意味で、販売者名を表示する考え方は変わらないが、何らかの方法でお客さまに製造者名がわかるやり方を検討する」としている。

 農薬混入というフードテロをきっかけに、食品の表示ルールが変わり、小売業界に大きく影響する可能性が出てきた。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

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