フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さんのフィリピンレポート。
日本の熟年独身男性が老後のパートナーを求めて、若いフィリピーナと結婚をするケースはいまだに多い。自分より二回りや三回りも年下なら先に死ぬことはなく、しっかり介護もしてもらえるというなんとも身勝手な理屈だ。
一方のフィリピーナは、日本人と結婚すれば日本に行けて、フィリピンに残された家族の生活も面倒を見ることができるというけなげな覚悟=打算で結婚に踏み切る。さらに、どうせたいして長生きもしないだろうから、いずれ晴れて自由な身になり、新しい夫を見つけてバラ色の人生を歩めるという淡い夢を見ている。
お互いの目論見=打算が一致して結婚に至るが、果たしてそんな結婚生活がうまくいくのか多いに疑わしい。しかしまさに、この形式婚を2人の努力でいかに実質婚に熟成させるかが鍵だ。
離婚制度がないフィリピンフィリピンには離婚という制度がない。アナルメントという「裁判官がその結婚が不当で初めから存在していないと判定した場合、婚姻を解消できる」という制度はあるが、数百万ペソ(1ペソ=約2.4円)の費用と数年の歳月を要するため、よほどのお金持ちでないと離婚はできない。だから実質的に離婚・別居している夫婦が、それぞれ別の家族を持って生活しているというややこしい夫婦がたくさんいる。
一方、離婚はできないとか、夫婦の資産は共有とか、面倒な規制がある法的な結婚(形式婚)を嫌って、はなから実質婚を選ぶ傾向もある。
そもそも法的な結婚とは何なのか。結婚生活が破綻して離婚という羽目になったときの離婚調停やら、夫婦の憎悪と確執はいったい何なのだろう。もともと実質婚であれば、恋人同士が別れるときのように、しばしの涙ですんでしまうだろう。
ここで参考までに、私のビジネスパートナーであるジェーンの兄弟を例にあげてフィリピン人の結婚生活を紹介しよう。日本人からすると奇妙に思えるだろうが、これはけっして特異なケースではない。
あるフィリピン人兄弟の結婚生活あれこれジェーンの長兄のダシンは理想の夫婦だ。幼馴染同士で結婚し、3人の子どもをもうけ、お互いに他の異性を知らないという。子どもたちもとても優しく聡明に育ったが、最近、長女のバネサ(17歳、大学1年生)が同級生と恋に落ちた。それをジェーンが徹底的に妨害し、母親は理解を示すものの、父親はジェーンの命を受けて反対し、バネサは見る影もないほどにやせこけてしまった。
次兄のアランは、ちょっとした遊び相手の女性を妊娠させて、ジェーンが強制的に結婚させた。3人の子どもまでもうけたものの、やがてアランは別の女と一緒になり、仲むつまじい生活を送っていた。2人は可愛い女の子までもうけたが、実質婚の“妻”はガンで他界してしまい、子どもたちを実家に預けてアランは新たな相手を見つけて実質婚をはじめている。彼の形式婚の“妻”は、やはり別の男と実質婚生活をしている。
末っ子のボボイは、これまた遊び相手の高校生をはらませて双子をもうけたが、18歳未満ということで相手の家族の要求を退け、正式な結婚はしなかった。
最初はいやがっていたものの4人の子どもまでもうけ、順調な実質婚生活に見えたが、最近、“妻”が子どもをほったらかしにして泊りがけで友だちと遊びに出かけたことに(ジェーンは女友だちだといっているが、たぶん男友だちとだろう)ボボイが腹を立てて、家庭が崩壊してしまった。もともと正式に結婚していなかったから、別れはいとも簡単だった。
しかし彼らの子どもたちにとってはいささか迷惑なことだ。ジェーンはこんなこともあろうと籍を入れさせなかったとうそぶくが、当のボボイは次の相手を見つけてLove Lifeに余念がない毎日だ。
フィリピンでもかつては私生児や母子家庭は差別されたが、最近はシングルマザーなどと格好の良い言葉が使われ、イメージがだいぶ向上した。親が法的に結婚しているかどうかで子どもの扱いを変えることもなくなってきている。
たしかに法的に結婚していなくても、家族と周囲が認めれば実質婚で何の支障もないし、法的に結婚しているかどうかは2人の愛情に何の関係もない。ただ、配偶者の財産の相続や遺族年金の受領に支障があるなど、法的な違いは残っている。こうした問題が解決すれば、結婚という法制度はいずれ無用の長物になるだろう。
(文・撮影/志賀和民)