競争過多で、成長企業でさえ瞬く間に凋落してしまう外食産業。そんなレッドオーシャンの中で、高業績を上げ続け、2014年12月に株式上場を果たした、<鳥良><磯丸水産>のSFPダイニング(3198)。
編集部 日本の株式市場におけるIPOは創業者が“創業者利益”を得るためという、本来のIPOの意義とは乖離している側面が多いことは否めません。しかし、寒川会長のように「ただ、社員の幸せのためだけにIPOをしたい!」という意識もそうですし、実際にIPOした際に、創業者自身がストックオプションを従業員にすべて渡してしまうくだりには驚きました。
白崎氏(以下、白崎) 読んでいただければ分かりますが、M&Aでファンド会社に株を売却したのも従業員のためであり、そのM&A自体がIPOに向けてのものでした。もともと、寒川良作会長には、実兄(=M&A時点でのSFPダイニング・寒川隆会長)と交わした「3つの約束」があり、その約束をずっと忠実に守っていったのです。
編集部 自分たちの子どもをSFPダイニングには入社させない…などといった約束ですね。
白崎 はい。1つめが、お互いの子どもを会社に入れない。2つめが、頃合いを見計らって会社を売却する。3つめが、会社を上場させる、です。
編集部 会社を売却したのが、2010年の12月。そして、ファンド会社が経営に参画したわずか3ヵ月後に、東日本大震災が起きました。
白崎 東日本大震災の被害に遭われた方々には不適切な言い方かもしれませんが…2011年3月からのSFPダイニングの動きはドラマや映画以上にドラマチックでした。言葉は悪いですが、手羽先唐揚屋のオヤジが経営者として成長し、ファンドの人間と丁々発止する……実は、相手はけして、“ハゲタカファンド”ではないのですが、構図的にはハゲタカの手羽先唐揚物語。「ハゲタカが人を食うか、手羽先になるか?」ですね(笑)。
編集部 株を売却した相手は“ハゲタカファンド”ではないんですよね。「ハンズオン」という、ファンド会社自らが社外取締役などを派遣し、経営に深く関与するスタイルを取った。そのために、なおさらいっそう、良く知られるハゲタカファンドのM&Aとは違うストーリーになったんですね。
白崎 そうです。そのリアリティは、ぜひこの物語を読んで、読者の方に体感していただきたいですね。
編集部 2014年12月16日、SFPダイニングが東京証券取引所に上場します。上場日には、実際、東京証券取引所で綿密に取材をされたんですね。
白崎 寒川兄弟の3つめの約束が果たされた瞬間に立ち会いました。僕も上場の場面をリアルに取材するのは初めてでしたが、それはそれは感動にあふれたものでした。その日その時間に、ちょうど、小学校の社会科見学があって、小学生のちびっこたちが、寒川会長はじめ、打鐘に向かうSFPダイニングの幹部社員に花道で拍手するシーンは胸がいっぱいになりました。これは、残念ながら、小説では描写していません。
編集部 長期間の執筆を経て、ビジネス経済小説を世の中に送り出されたわけですが、いまどんなことを思っていますか?
白崎 取材している最中からずっと思っていたのですが、SFPダイニングや小説に登場する周囲の人々…その誰もが、とても個性的で、見た目も言動も「あなたは役者さん?」と見紛うほどでした。僕と出版社の編集者が「創られた世界」に放り込まれ、最初から仕組んであった一冊の本を創らされたような…映画で言えば、ジム・キャリーの「トゥルーマン・ショー」みたいな(笑)。
白崎 それと、もうひとつ。「成功している人の話には、物語として成立する強い要素があるものだ」と再認しました。