日本でもMaaSの導入に向けた議論や実証実験がはじまっています。ただ、MaaSの本格的な導入には法律の改正や運行に関する交通データの事業間共有など、多くの課題が残されています。
代表的な導入事例を紹介しながら、どんな課題があるのか、解説します。少子高齢化や低迷する経済成長率、東京への一極集中による交通混雑など、日本社会は多くの課題を抱えています。そんな中、政府は2018年の成長戦略でMaaSに触れるなど、移動の効率化を通じて、渋滞・混雑解消や過疎地の交通難対策、環境汚染の改善といった社会問題も解決に導くMaaSの導入に強い意欲を見せています。足並みを揃えるように国土交通省は日本版MaaSのあり方や、バスやタクシーにAIや自動運転を活用する際の課題や方向性を議論する有識者会議を定期的に開催。また、北海道から沖縄まで、さまざまな地域で企業や自治体が参加した実証実験も行われています。
一方でMaaSの本格的な導入には法律の改正や、運行に関する交通データの事業間共有など、多くの課題が残されているのが実情です。代表的な導入事例を紹介しながら、どんな課題があるのか、解説します。
そもそもMaaSとはどんなこと?
MaaSはMobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の頭文字を取った略語で、「サービスとしての移動」と訳されています。目的地までの移動をICT(情報通信技術)やAIを活用しながら、極限まで効率化することを目指す考え方です。専用のアプリを使い出発地点と目的地を入力すると、飛行機、電車、地下鉄、フェリー、路線バス、高速バス、タクシー、シェアサイクル、レンタカーなど、あらゆる移動手段を対象に、リアルタイムの交通情報や混雑予測を考慮した、最適なルートを複数案、提示してくれます。さらに、そのまま検索結果からルートを選択し、チケット予約や決済までシームレスに完結できるように設計されている点がMaaSの特徴です。最終的には都市計画に組み込まれ、交通網を再構築し、利用者の要望に応じて自由に運行時刻やルートを変更するオンデマンド交通の活用、自動運転車のモビリティの配車サービスなど、新しい移動手段も積極的に開発・導入しながら、移動の効率を追求していきます。そんな新しい「移動」の概念です。
MaaS実現までの課題にはレベルが設けられている
飛躍的に移動の効率がアップするMaaSですが、新しい概念のため、実現するまでにはいくつかハードルをクリアしていく必要があります。そこでスウェーデンにあるチャルマース工科大学の研究者が、MaaSの実現に向けた統合レベルを0~4に分類し、公表しています。これはMaaSの進捗度合いを示す指針として活用されています。
レベル0
MaaSに向けた統合が進んでいない初期レベルを指します。鉄道やタクシー、バスなど、それぞれの事業者は独自にサービスを展開しており、データの共有や運行を連携することはありません。ルート検索でも事業者をまたぐような横断的な検索はできず、事業者内の路線に限った乗り換え案内だけになります。また、料金も交通事業者を利用するごとにユーザーは支払いをする必要があります。レベル1
レベル1ではMaaSの実現に向けて「情報」が統合された状態を指します。情報とは各交通機関が持っている時刻表データや、運行情報のデータ、あるいはリアルタイムの運行情報や混雑情報など、効率的な移動に欠かせないあらゆるデータを指します。MaaSでは複数の交通事業者のこうした運行情報や運賃に関する情報を統合し、ひとつのアプリで検索できるように設計します。現状の日本では、乗り換え案内や地図アプリで、複数の交通機関を横断的に検索できるサービスが登場しているため、このレベル1にあると言われています。
レベル2
レベル2は「予約・決済の統合」です。レベル1で情報が統合されたことにより、複数の交通事業者を使ったルート検索が可能になります。続けて予約と決済までシームレスに手続きできるのが、MaaSです。そのため、「予約・決済の統合」が完了すると、一歩MaaSの実現に進みます。現在、日本でもSuicaやPASMOといった交通系ICカードを利用すると、JR線や私鉄線、バスやタクシーなど異なる事業者で支払いができますが、交通系ICカードでの支払いに対応していないレンタカーやシェアサイクルといった交通手段も残されているため、予約・決済が完全に統合されているとは言えない状態となっています。レベル3
レベル3は「サービス提供の統合」です。異なる交通事業者が連携を取ることで、複数の交通機関を使って移動したとしても、料金が統一されていたり、定額の乗り放題サービスが利用できるプラットフォームが整備されることで、まるでひとつの交通機関を利用しているかのような乗車体験ができるのが、レベル3です。MaaSアプリのWhimが普及しつつあるフィンランドでは、定額制で公共交通が乗り放題になるプランを提供しており、レベル3に到達していると言われています。
レベル4
MaaSの最終到達点であるレベル4になると、事業者のレベルを超えて、国や自治体が都市計画や政策にMaaSの概念を組み込むことになります。交通事業者では決断できないインフラの整備や、法改正、柔軟な料金設定を行うことで、移動の効率化はもちろんのこと、渋滞解消、地球環境の保護、高齢者や過疎地での移動改善など、さまざまな社会問題が解決に向かうことにあります。日本のMaaS普及レベルは0~1程度
日本のMaaSレベルは0もしくは1だと言われます。レベル1ではなく、レベル0だという意見では、鉄道や路線バスといった交通手段は「情報」が統合されているものの、高速バスやタクシー、シェアサイクルなど統合が不十分な移動サービスが残されている点が不十分だと指摘されています。エリアの規模によって交通課題は異なる
日本にMaaSを導入するといっても東京や大阪のような大都市と地方都市では、抱える交通問題が大きく異なります。また郊外や過疎地、観光地によっても違います。そこで効果的にMaaSの導入を進める上でも、いくつかのタイプに分類することで、MaaSの目的や実現のイメージを整理する動きがあります。大都市や大都市近郊型の交通課題
大都市や大都市近郊では、人口が密集し、ウィークデーの朝夕には通勤や通学による電車や路線バスの混雑が日常的に発生しています。また、駅に通じる道や幹線道路も車による渋滞が発生し、効率的な移動を妨げています。訪日外国人観光客も増加していることもあり、日本での移動に慣れていない彼らが利用しやすいよう、MaaSアプリの多言語化も欠かせません。そのほか、移動する人口に対して、交通手段が不足し、それが渋滞や混雑の原因になっているため、手軽に使えて乗り捨ても可能なシェアサイクルの拡充や相乗りタクシーなど、多様な交通手段を整備することも求められます。
観光地の課題
地方の観光地では空港や主要駅からの移動手段となる、二次交通が不足しがちです。そのため、観光地型MaaSでは空港アクセス交通や都市間幹線交通との連携がカギになります。また増える訪日外国人の移動をサポートする必要があります。そのほか観光スポットが点在するエリアでは観光客の回遊性を向上させて、域内をスムーズに移動できるようサービスの連携や新しい輸送サービスの開発も課題となっています。こうした観光地では、柔軟にルートを設定するオンデマンド交通、あるいは環境に配慮したスローモビリティといったサービスとの相性が良いと考えられています。