去る9月28日は、世界狂犬病予防デーだったという。
日本では、野犬捕獲や飼い犬の登録、予防接種を徹底させたことにより、狂犬病の発生は、ヒトでは昭和29年、動物では昭和32年を最後にない。
そんな折り、厚生労働省の結核感染症課の担当の方からお話を伺えることになった。
「狂犬病は、名前のせいで、狂騒状態にある犬が狂犬病ウィルスを媒介する病気だと誤解されがちかも知れませんね」
意外な前置きからレクチャーが始まった。
「狂犬病に罹る可能性がある動物は哺乳類全てですが、ヒトの場合、犬、猫、狐、アライグマ、コウモリなどの動物から主に感染します。その中でも、9割以上の媒介例が犬からなので、犬の登録制度や狂犬病予防注射を徹底させることが、狂犬病予防に繋がるわけです」
狂犬病の症状は、2タイプ存在する。
そのひとつは、「狂騒型」。その名の通り、発病した動物が、興奮甚だしく攻撃的かつ狂騒的になる。あまり知られていないもうひとつのタイプが、「麻痺型」。犬の場合、後半身の麻痺がしばしば起こり、ほとんど動けなくなる。ヒトの場合、水が飲み込めなくなる「恐水症」や、僅かな空気の動きにも敏感に反応する「恐風症」といった症状もみられるそうだ。
「犬を例にあげると、勢いよく吠えたてる犬だけが危ない訳ではないんです。一見、普通のおとなしそうな犬だと思って人が近づいた途端、噛みつかれるケースもあるといいます」
咬み傷や切り傷などから、感染した動物の唾液中にあるウィルスが侵入するのが、主な感染ルート。
「動物が大好きでも、海外では、見知らぬ動物を構わないように。噛まれたりした場合には、まず傷口をよく洗ってください。石鹸を使って、流水で丁寧に洗うのがベストです」
海外で犬に噛まれた際に、地元の人が、濃い塩水、お酢やレモン汁で傷口を洗うという話をたまに聞くが、全く医学的な根拠がないとのこと。
傷口を洗浄及び消毒後、すぐに信頼できる医療機関を受診し、ワクチンこと暴露後予防注射(PEP)の接種を開始しなくてはならない。渡航先の国の狂犬病予防対策次第では、抗血清や破傷風のワクチンをまず打つ場合もあるそうだ。万が一、動物に噛まれた場合は、帰国時に、空港などにある検疫所に申告すること。また、地元の保健所にも、狂犬病の治療中である旨を報告するとよいそうだ。
もしも、旅行先の地域に、ワクチンのある医療機関がないなら、どうすればいいんだろう?
「PEP接種の開始は、早ければ早いほど良いんです。治療が受けられる地域まですぐ移動してください」と、担当の方。
もし接触後、治療せずに即帰国したとしても、検疫所や保健所に報告し、指示を仰がなくてはいけない。おそらく最寄りの推奨医療機関で受けるPEP接種は、開始日を0日として、3、7、14、30、90日の計6回行われる。この期間中に、ウィルスに対する免疫をつけなければいけないのだそうだ。
「万が一、事前の予防接種を受けていたとしても、噛まれてしまった後のPEP接種は必須なんです」
事前の予防注射が100%確実じゃないってこと!? しかも、免疫をつけるのに、計画的に半年~1年かけて、数回接種を受けるのが望ましいのに!?
だからこそ、動物との接触を極力さけることが、狂犬病に対する最大の防御策になるのだ。
ウィルスの潜伏期間は、通常1~3カ月。侵入した狂犬病ウィルスは神経を伝い、最後に脳に到達して、そこで増殖する。
「21世紀の医療をもってしても、治療法がまだ見つかっていない、発病後は死を待つしかない病気です」と、担当の方は何回も繰り返した。
「発病したが最後、手のうちようがないんです。知らなかった、時間がなかっただけでは済みません。あなたのペットや、あなた自身が死の危険と相対することを想像してみてください。世界には、日本のように、狂犬病がない国や地域の方が珍しいんですよ」
他には、アイルランド、アイスランド、イギリス、オーストラリア、台湾、ニュージーランド、ハワイ、北欧などがその珍しいカテゴリーに入る。
確かに、海外では、他人のペットをむやみにかまわないのもエチケットのひとつと聞いたことがあるし、国などによっては、人にかみついた犬は、飼い犬であろうとも即座に保健所などに送られ殺されてしまうということも聞いたことがある。だから、狂犬病って怖い病気なんだという程度の認識はあったけれど……でも、狂犬病が発生していない国が、ここまで少ないとは。
パスポートや保険も大事だけど、海外に出る時は、狂犬病など旅行先に存在する病気の知識も大切だなと思い知らされた。
(いぬい亨)
日本では、野犬捕獲や飼い犬の登録、予防接種を徹底させたことにより、狂犬病の発生は、ヒトでは昭和29年、動物では昭和32年を最後にない。
でも、平成18年にフィリピンで狂犬病に感染したらしい旅行者が2人、帰国後に発症して亡くなられたという話や、今年では、松岡修造さんが海外で犬に噛まれ、狂犬病の話題が再浮上したなんてこともある。
そんな折り、厚生労働省の結核感染症課の担当の方からお話を伺えることになった。
「狂犬病は、名前のせいで、狂騒状態にある犬が狂犬病ウィルスを媒介する病気だと誤解されがちかも知れませんね」
意外な前置きからレクチャーが始まった。
「狂犬病に罹る可能性がある動物は哺乳類全てですが、ヒトの場合、犬、猫、狐、アライグマ、コウモリなどの動物から主に感染します。その中でも、9割以上の媒介例が犬からなので、犬の登録制度や狂犬病予防注射を徹底させることが、狂犬病予防に繋がるわけです」
狂犬病の症状は、2タイプ存在する。
そのひとつは、「狂騒型」。その名の通り、発病した動物が、興奮甚だしく攻撃的かつ狂騒的になる。あまり知られていないもうひとつのタイプが、「麻痺型」。犬の場合、後半身の麻痺がしばしば起こり、ほとんど動けなくなる。ヒトの場合、水が飲み込めなくなる「恐水症」や、僅かな空気の動きにも敏感に反応する「恐風症」といった症状もみられるそうだ。
「犬を例にあげると、勢いよく吠えたてる犬だけが危ない訳ではないんです。一見、普通のおとなしそうな犬だと思って人が近づいた途端、噛みつかれるケースもあるといいます」
咬み傷や切り傷などから、感染した動物の唾液中にあるウィルスが侵入するのが、主な感染ルート。
「動物が大好きでも、海外では、見知らぬ動物を構わないように。噛まれたりした場合には、まず傷口をよく洗ってください。石鹸を使って、流水で丁寧に洗うのがベストです」
海外で犬に噛まれた際に、地元の人が、濃い塩水、お酢やレモン汁で傷口を洗うという話をたまに聞くが、全く医学的な根拠がないとのこと。
傷口を洗浄及び消毒後、すぐに信頼できる医療機関を受診し、ワクチンこと暴露後予防注射(PEP)の接種を開始しなくてはならない。渡航先の国の狂犬病予防対策次第では、抗血清や破傷風のワクチンをまず打つ場合もあるそうだ。万が一、動物に噛まれた場合は、帰国時に、空港などにある検疫所に申告すること。また、地元の保健所にも、狂犬病の治療中である旨を報告するとよいそうだ。
もしも、旅行先の地域に、ワクチンのある医療機関がないなら、どうすればいいんだろう?
「PEP接種の開始は、早ければ早いほど良いんです。治療が受けられる地域まですぐ移動してください」と、担当の方。
もし接触後、治療せずに即帰国したとしても、検疫所や保健所に報告し、指示を仰がなくてはいけない。おそらく最寄りの推奨医療機関で受けるPEP接種は、開始日を0日として、3、7、14、30、90日の計6回行われる。この期間中に、ウィルスに対する免疫をつけなければいけないのだそうだ。
「万が一、事前の予防接種を受けていたとしても、噛まれてしまった後のPEP接種は必須なんです」
事前の予防注射が100%確実じゃないってこと!? しかも、免疫をつけるのに、計画的に半年~1年かけて、数回接種を受けるのが望ましいのに!?
だからこそ、動物との接触を極力さけることが、狂犬病に対する最大の防御策になるのだ。
ウィルスの潜伏期間は、通常1~3カ月。侵入した狂犬病ウィルスは神経を伝い、最後に脳に到達して、そこで増殖する。
「21世紀の医療をもってしても、治療法がまだ見つかっていない、発病後は死を待つしかない病気です」と、担当の方は何回も繰り返した。
「発病したが最後、手のうちようがないんです。知らなかった、時間がなかっただけでは済みません。あなたのペットや、あなた自身が死の危険と相対することを想像してみてください。世界には、日本のように、狂犬病がない国や地域の方が珍しいんですよ」
他には、アイルランド、アイスランド、イギリス、オーストラリア、台湾、ニュージーランド、ハワイ、北欧などがその珍しいカテゴリーに入る。
確かに、海外では、他人のペットをむやみにかまわないのもエチケットのひとつと聞いたことがあるし、国などによっては、人にかみついた犬は、飼い犬であろうとも即座に保健所などに送られ殺されてしまうということも聞いたことがある。だから、狂犬病って怖い病気なんだという程度の認識はあったけれど……でも、狂犬病が発生していない国が、ここまで少ないとは。
パスポートや保険も大事だけど、海外に出る時は、狂犬病など旅行先に存在する病気の知識も大切だなと思い知らされた。
(いぬい亨)
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