私が住む韓国にも、レッサーパンダに出会える場所がある。ソウル大公園内に位置する「ソウル動物園」がそれだ。
韓国映画『美術館の隣の動物園』に登場する同園が、韓国で初めてレッサーパンダを公開したのは、奇しくも日本で風太くんブームが巻き起こった2005年5月のこと。現在もここが、韓国でレッサーパンダを紹介する唯一の動物園となっている。
ところで、韓国におけるレッサーパンダの認知度は、残念ながら日本ほど高くないようだ。動物園ウェブサイト内の「人気動物ベスト」というコーナーを開くと、トラ、オランウータン、アジアゾウ、イルカ、プンサン犬(北朝鮮からやってきた郷土犬)、ビルマニシキヘビといった動物が並ぶが、そこにレッサーパンダの名前はない(インコとともに挿絵的にイメージカットだけ載っているが、彼がレッサーパンダであるという説明はない)。
周囲の韓国人にレッサーパンダを知っているか聞いたところ、反応はあまり良くない。パソコンで画像を見せても「何これ、かわいい。タヌキみたい」と、初めて見たという口ぶりである。試しにグーグルで、「レッサーパンダ」と韓国語で打ち画像検索すると、ヒットするのはたったの348件。韓国語「パンダ」の画像検索結果が17万3000件もあることと比べると(2009年4月23日現在)、ちょっと関心が少ないのではと言える。
レッサーパンダは韓国でもちゃんと愛されているのだろうか。やさぐれることなく元気に暮らしているだろうか。気になった私は、ソウル動物園に取材を申し入れた。
質問に応じてくれた飼育士のチュ・ユンジョンさんによると、「パンダと言えばジャイアントパンダが良く知られており、レッサーパンダはあまり知られていないのですが、ここで実際に見て、動物園で一番かわいかったと話す方は多いですよ。アニメのキャラクターみたい、お人形さんみたい、そんな感想をいただきます」。でかした。それでこそレッサーパンダである。
現在ソウル動物園にいるレッサーパンダは2頭。どちらも日本からやってきた期待の星だ。
2004年6月26日生まれ、愛媛県立とべ動物園出身のサンクミくん(オス)は、2005年6月に來韓した。「サンクミ」は韓国語で、さわやかなイメージを持つ単語。性格はおとなしく、ちょっと人見知りなところがあるとか。
2004年6月29日生まれの同級生、エンドゥちゃん(メス)は福島県の東北サファリパーク出身。昨年9月に韓国にやってきたばかりである。「エンドゥ」は韓国語でサクランボに似た果実のことで、赤みのある毛並みからそう名づけられた。サンクミくんよりも人懐っこい性格の持ち主だそう。
また2頭ともバナナが好物で、寒い日には空調の効いた室内と、日の当たる屋外を行ったり来たりしながら、元気に毎日を過ごしているという。
さて、レッサーパンダなら当前の行動であるとファンの方から怒られてしまいそうだが、避けて通れないあの質問、「こちらのレッサーパンダも立ったりするんですか?」を飼育士さんにぶつけてみた。
すると「ええまあ、高い位置に食べ物があると、立ち上がって食べたりもします」という答え。でかした。それでこそレッサーパンダである。
写真撮影したい旨を伝えると、なんと檻の中での撮影を許可してくれた。これはまさに、レッサーパンダ好き男児としての本懐である。雨が降っていたが、レッサーパンダが傘を怖がるからと、雨に当たりながらの面会となった。
飼育士さんとバナナの登場に喜び、レッサーパンダたちはあちらこちらをひょこひょこ走り回る。そのすばしこさに、カメラが追いつかない。やがて彼らはユンジョンさんが掲げたバナナの切れ端を、前足で上手につかんで食べ始めた。「この子は手先が器用なんですよ」と話す。時には立ち上がってバナナをもらおうとする、レッサーパンダたちの元気はつらつな姿は、あまりにも愛くるしく私の胸にせまるものがあった。
素晴らしいよ、レッサーパンダ。後ろ髪を引かれながら取材を終えた私は、心の奥になかなか消えない温かいものを感じつつ帰途に着いた。今後も彼らが韓国の地で健康に暮らし、動物園を訪れる人々に、ハートフルな気持ちを与えてくれることを応援したい。
(清水2000)