しばらく前になるが、元・長野県民3人で飲む機会があった。
そこで話題になったのが「白文帳」。
30年ぶりにその名を聞いてすぐには思い出せなかったが、一種の漢字練習帳のことをいう。どうやらこれ、長野県の学校にしかないらしい。

読み方は「はくぶんちょう」。ここで、国語の授業を思い出してみてほしい。「レ」とか「一」「二」とかの記号が付いてない、漢字ばっかりが並んでいる漢文を「白文」と呼ぶ。ここから、漢字練習帳に「白文帳」の名が付いたようだ。


白文帳を販売する株式会社文運堂に聞いたところ、1年半ほど前に日本テレビの取材があり、『秘密のケンミンSHOW』で白文帳が紹介されたという。放映からだいぶ日がたっているので、どんなものなのか、あらためて紹介しておこう。

1. A5サイズの漢字練習帳。普通の漢字練習帳に比べマス目がとても小さい。
2. 年間約13万冊、ほぼ100%長野県だけで売れている。
3. 長野県の中学生は、毎日宿題で、白文帳1ページの漢字を書かなきゃならない。


昭和10年頃に県中部の松本で生まれたものだというが、どうして長野県だけなのか。歴史と現状について長野県教育委員会に尋ねてみたものの、「県として取り組んでいるものではありません」との回答だった。文運堂さんによると、白文帳は学校の先生の手によって広められた。先生の人事異動が県内に限られるため、長野県以外にはなかなか広がらないのだという。

さて、文運堂さんから1冊頂いた白文帳に、中学時代に戻った気分で30年ぶりに漢字を書いてみることにした。1ページ分で234文字も書かなくちゃならないので、書き始める時、「いったいいつ終わるんだろう」という絶望感に襲われる。
なぐり書きでは翌日先生に怒られること必至なので、そこそこ丁寧に書かなくちゃならない。たしか、書く字は自分で決めてよかったはず。「一」という漢字ばかり書けばすぐに終わるが、これも翌日叱られること間違いなし。うーん、これは大変だ。こんなに大変なこと、よく毎日やっていたものだ。我ながら感心する。
右ひじが痛くなってしまった。

長野県民(元県民を含む)に思い出を聞いてみた。
「悪いことをした時、『罰として白文帳○ページ書いてくること』というのがあった」
「パソコンで漢字を忘れてしまった私が、手書きの漢字を思い出せるのは、白文帳でひたすら書きとりしたおかげ」
「『やらされるもの』の代名詞だった。書く量、書く字は自分で決められたはず。やる気を人にアピールするトレーニングをさせられていたのでは?」
一方、「全く覚えていない」という声も、長野県を離れて久しい人を中心に多くあった。人間、嫌な思い出は無意識のうちに忘れてしまおうとするらしいけれど、県外にいると白文帳を思い出す機会もほとんどないので、そうなってしまうのかなと思います。

(R&S)