ソウルにおいてインディーズバンドの活動の場となっているのが、弘益大学を中心とする弘大(ホンデ)エリア。大小様々なライブハウスが集まり、週末になれば、アマチュアから結成十年を超えるベテランバンドまで、幅広いミュージシャンがライブを繰り広げる。


そうしたライブハウスの中でも、特に「インディー中のインディー」と呼ばれ、玉石入り混じった個性的なインディーズバンドが出演するアングラライブハウスが、「salon badabie(サロン・パダビ)」だ。
ミュージシャンのラインナップは、まさにノンジャンル。静かに聞かせるフォークやボサノバ、スタンダードなロックを始めとし、流血を辞さないパンク、韓国の伝統楽器を擁するジャズやポップス、エレクトロニカ、ノイズまで、無秩序なほど多彩なインディーミュージシャンが登場。日によっては詩の朗読や演劇が行われることもある。
今や韓国ロックフェスにもたびたび登場するバンド「ギャラクシーエクスプレス」「ピドゥルギウユ」、韓国の実験音楽の草分け的存在「イッタ」、日本版CDも発売している人気フォークデュオ「小規模アカシアバンド」なども、パダビの舞台で育った。

会場はビルの地下1階。薄暗い階段を降りると、DIYでペンキを塗り板を張ったような、手づくり感あふれる空間が現れる。壁には色とりどりのポスターが貼られ、客席には古びたベンチが並ぶ。取材した日には20人ほどの観客がライブを楽しんでいたが、人気バンドの公演の際はスタンディングで100人近い集客があるという。
海外のミュージシャンもここで演奏することがあり、この日も、友人の紹介で演奏することになったという日本人ミュージシャンの宗田佑介さんが出演していた。宗田さんは「観客の反応が早く、とても楽しく演奏できました」と満足そうにライブの感想を話す。
なお、ライブの後には毎日、会場や近所の焼肉屋などでの打ち上げがある。
これには観客も自由に参加でき、ミュージシャンと気軽に交流できるのも、パダビファンを増やすところとなっている。

2004年から休むことなくライブハウスを運営してきた名物社長が、詩人でもある雨中独歩行(ウジュンドッボヘン)さんだ。
もともと様々なジャンルの芸術家たちによるサロンを作ろうとしたところ、結果的に若いミュージシャンが多く集まるようになったという。そのような経緯から、他のライブハウスでは消化しにくい実験音楽も含む、ジャンルを問わないパフォーマーが登場するように。
芸術家肌の社長を慕うミュージシャンも多い。例えばこんなエピソードがある。2006年に賃貸料を滞納し、あと1ヵ月で会場を閉めると宣言したところ、それはもったいないと約30人のミュージシャンが集結。あるバンドは路上ライブをして募金を集めたり、あるバンドは普段はしないCM曲の仕事を受けたりと、自発的に資金集めに奔走し、2ヵ月後には700万ウォン(現在100ウォン=約8.3円)を集め、見事にパダビを復活させた。

いかにもアングラで規模は小さいけれど、どこか温かな雰囲気もあるライブハウス。ソウルのインディーズバンドの今後をいち早く知りたいのなら、躊躇せずパダビを訪れてみてほしい。
韓国の音楽ファンを前に演奏したい人も、積極的にアプローチしてみてはいかがだろう。
(清水2000)
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