『U-cafe』はネット上の募集で集まった書き手が決められたテーマに沿って小説や漫画、イラストで参加するアンソロジータイプの作品なのだが、そのテーマの決め方がちょっと変わっていて面白い。企画者のU1自らがUstreamで執筆企画についての放送をして、集まった視聴者からアイデアを募るのである。第一回の放送は今年の4月6日から10日にかけて行われ、第二回が5月31日から6月2日にかけて行われた。第一回目では7名だった書き手も今回は一気に31人に増えている。
「びっくり箱」とU1が表現するように、100人程の人間が思い思いに意見を書き込むので、一人では思いもつかないような設定が生まれてくる。たとえば「男」という登場人物を掘り下げていったら、最終的に「幼女恐怖症の30歳教師が幼女と一緒に暮らす」という物語のプロットが出来上がるのである。企画参加者はそうして生まれたアイデアを使い、自分の発想を付け加えながら一つの作品を完成させる。
執筆陣はネットで作品を公開している有名人から今回初めて小説を書いたという人までさまざま。
冒頭で触れたU1のネット上での活動というのがニコニコ動画でのゲーム実況である。動画が人気を博しネット上での知名度が高まった事で、今回の企画に思い至った。乙一はゲーム実況動画のファンだったのである。昨年の12月12日、乙一の出演するニコニコチャンネルGTVの「中野ゲームショウ」にU1が出演したことから交流が生まれ、元々乙一のファンでもあったU1が是非企画に参加して欲しいと頼み込んだ。いくら乙一さんがゲーム実況のファンでも、プロ作家が一介の素人が作る同人誌に作品を書く、それもノーギャラで、なんてことがあるとは思えなかったので、U1から「乙一先生の参加、決まりました」という話を聞いた時は本当に驚いた。U1の行動力と乙一の懐の深さによって実現したビッグサプライズと言えるだろう。ちなみに『U-cafe』の命名も乙一によるものだ。
8月1日に公開された公式HPでは二人の対談も掲載されており、参加までの経緯が詳細に書かれている。「商業誌では絶対に書かないものになりました」と語る乙一の新作は、単純に一ファンとしてとても楽しみだ。
『U-cafe 弐』は小説をまとめた『Side-A』と漫画、イラストをまとめた『Side-B』のセット販売で合わせて2500円。
電子書籍が台頭し、本のデータ化が進んでいる今だからこそ紙にすることで価値が生まれる、とU1は言う。UstreamやTwitterを駆使して作られた『U-cafe』は、それ故にとてもアナログな愛に溢れた2010年の同人誌なのである。(たろちん)