「クソムシが」というタイトルの本が発売されたんじゃないかと思いました。綾波レイばりのクールビューティーが明らかにドSっぽい微笑みを浮かべてそう言っているからです。
しかしマンガのタイトルは『惡の華』。悪ではなく惡です。
先月発売された2巻は、「変態なんかじゃ…ない」と弱々しい男子プルプル怯えるデザインです。モノクロのイラストにパワーあふれるフォントのセリフでざっくり。一度見たら忘れられないデザインを手がけたのは久持正士・土橋聖子(hive&co.,ltd)。「さよなら絶望先生」の特殊な色合いと紙質を再現したデザイナーさんです。

ボードレールを愛する地味で目立たない少年春日君が、クラスのマドンナ的存在である佐伯さんの体操着を盗んでしまうところから物語は始まります。
大人になると犯罪とか政治とか、色々な大事件が世界にあることを知りますが、中学生の時は自分にとって大事なことって、そういうことじゃない。世界平和より「目の前にいる女の子に嫌われたくない」ということのほうが重要なのです。だからニュースの中の事件よりも「好きな女の子の体操着を盗む方が悪」なんです。世界中から僕は「悪」だと思われている!という妄想付きで。

罪に酔いしれるのも、怯え苦しむのも思春期ならでは。
「オレはこの罪を一生償っていくよ、老人になっても…ずっとあがなうよ」「どいつもこいつも間抜けでだらしないおっとせいの群れだ! だから今までずっと教室の中では貝のように閉じてきたのに…」などの独特なモノローグが多いです。なんだか滑稽。しかし読み終わってみると、意外に心に刺さって抜けません。

この「体操着盗難事件」から1巻表紙のエキセントリック少女仲村さんが介入することで事態は意外な方向に向かっていきます。罪に怯え逃げ惑う春日を「クソど変態人間」「クズ鉄」「うんち人間」「クソムシ」と罵り、徹底的に追い詰めていきます。冷たい目線を向けながら、しかし仲村さんは叫びます。「キレイごとばっか吐きやがって、どいつもこいつも腹の中は! せっくすせっくす! 結局クソせっくすがしたいだけ!!!」

クソムシな春日くん、清楚可憐な佐伯さん、破滅へと導く仲村さんの三人の見ている世界は非常に狭いです。しかしこの作品は、思春期の彼らが感じるどうにもならない不安や憤り、吐き出さずにいられない情動を描こうとしています。
だからこそ大人に読んで欲しい作品です。悶々とした世界から卒業したつもりでも、理性で押さえ込んだはずの叫びを引き出すんです。忘れかけていた不安がみるみる蘇ってきますよ。

さてこの本、棚に並べても目立ちます。
背表紙のタイトルの上に、ちょうどキャラの左目が来るんです。つまりいつどんな時でも、本がこっちに視線を向けてくる。
思春期は終わらない。言葉にならないあの頃のモヤモヤは、いつになっても追いかけてくるんだよ。 (たまごまご)
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