福岡の和菓子老舗、松屋菓子舗に紹介してくれた友人が、こんな風に熱く語ってくれました。断っておきますが、40代のいい大人(男性)です。
日本三大銘菓の一つに数えられ、博多の伝統銘菓として市民に愛されている「鶏卵素麺」。見た目はまさに黄金色の素麺で、箸などで少しずつ形を崩しながら、渋いお茶などと一緒にいただきます。
もともとポルトガル伝来の南蛮菓子で、1673年に福岡藩主、黒田光之公に認められ、御用菓子司「松屋利右衛門」が誕生しました。そこから数えて13代目が、松屋社長の松江光さん。今も変わらぬ味を、一子相伝の想いで作り続けているといいます。
その松江社長の好意で、今回幸運にも工場内を見学して、その秘伝の製法を取材できることになりました。
鶏卵素麺の製造場では、十数名の職人さんが黙々と仕事をされていました。ざっと見渡しても、機械らしきものが、まったくない。なんと江戸時代と変わらぬ作り方で、すべて手作業で作られているんだとか。
作り方も非常にシンプル。まず卵の卵黄を取り出して卵黄液を作ります。それを底に穴の空いた容器ですくって、沸騰させた糖蜜の中に糸のように流し込みます。頃合いを見て引き上げ、斜めに並べて、余分な蜜が落ちた後に切りそろえれば、できあがり。文字通り無添加、無着色、無香料で、余分なモノは一切ありません。
当然ながら職人さんの勘と経験が大きくモノを言う世界です。糖蜜の適正な温度にしても、温度計ではなく、沸騰時の泡の大きさで判断するのだとか。そもそも、この味が機械では作れない。ゆえに大量生産できない。なので宣伝も最小限度。それでも今まで、この味が脈々と受け継がれ、博多っ子に愛されてきたのは、素晴らしいですね。
でもって肝心の味なんですが……。ちょっとサクサク感があって、口の中でぱらっと溶けて、後味が意外にスッキリしているんですよ。確かに甘いんですが、アメリカのジャンキーなケーキのように、えぐみのある甘さとは、まったく違います。グラニュー糖の甘さではなく、もっと上品なんですよ。
逆に味に力があるので、スナックのように、たくさんは食べられない。お茶会向けの高級菓子としても人気があるとのことでしたが、さもありなん。一口、二口と、味わいながらいただきたいですね。
ところが、取材後に街で話題にふってみたところ、若い人で認知度が今ひとつなんですね。これが35歳を超えると(個人的観測)、一気に認知度が上がるような……。それだけ接する機会が増えるんでしょうか。もっとも味覚で江戸時代にタイムトリップできるなんて、なかなかない経験ですから、若くて感覚が新鮮なうちに接したいところです。
余談ながら、あまりに材料と製法がシンプルなので、家庭でも作れるんじゃないか……と調べてみたら、主婦(主夫)の友「クックパッド」にレシピがありました! さっそく挑戦したところ、素麺というより、うどんの煮崩れたような出来上がりに。
同じ目玉焼きでも、家庭と一流ホテルのレストランでは、味がまったく違います。いわんや鶏卵素麺をや、ですね。大変失礼いたしました! 福岡以外の方でも、公式サイトでお取り寄せが可能です。(小野憲史)