全国でごく普通に食べられている食材が、別の地域では違う食べ方をされて郷土料理となっている。なんてことは多い。

香川県にも、そんな郷土料理がある。それが“まんばのけんちゃん”だ。

まるで人の名前のようだが、これはマンバと呼ばれる野菜と豆腐の煮びたしのこと。
このマンバは香川でのみ通じ、他の地域では見かけることがほとんどない。その理由は他の地域ではこの野菜、“三池高菜”と呼ばれているからだ。

これはその名のとおり高菜の一種。寒くてもよく育ち、大きな葉っぱが特徴。霜があたってくると、アントシアニンがでて色が濃くなり、旨味も増すのだとか。

西日本ではよく作られていて、別段珍しい野菜ではない。が。この料理で珍しいのはその調理法。
他県で高菜と言えば高菜漬けが有名だが、香川では漬けずに煮浸しにするのである。
生の高菜を煮炊きする調理法は他県ではほとんど見かけられないそう。
何よりも高菜は灰汁が強く扱いにくいので、スーパーなどに並びにくいのだという。それが香川では冬になるとどこのスーパーでも、野菜売り場でしれっと販売される。
その理由を、栄養士の方に聞いてみると「調理法のせいではないか」とのこと。

香川でメインに食べられている“まんばのけんちゃん”の作り方は、まずマンバを湯がき、水にさらして灰汁を抜く。そして適当な大きさにカット。木綿豆腐も軽く水きりをしておく。
続いて油で煮干を炒めた上からマンバと豆腐を入れて軽く炒め合わせる。最後に煮干出汁と醤油、みりんなど調味料で味を調えて軽く煮たら完成。
ここでのポイントは、イリコと呼ばれる煮干。元々香川はイリコ出汁が好まれる土地柄だ。讃岐うどんも「イリコ出汁でないと」と言う人も多い。

このガツンと個性のあるイリコ出汁が高菜の癖を消してくれるのでは……と栄養士さんは言う。

味と言えばピリ辛感は薄く、優しく素朴。さらに高菜には免疫力を高める効能があるそう。
「高菜漬けではそう沢山は食べられませんが、煮ることで一束くらいなら食べられるのでおすすめです」
マンバが食べられる時期は例年11月から3月まで。冷え込む1月2月がもっとも美味しく、旬でもある。インフルエンザが流行るこれからの季節には嬉しい食材と言えそうだ。

ちなみに、まんばのけんちゃんと言うのは、主に讃岐の東地方の呼び名。西讃では“ひゃっかの雪花”とも呼ばれているそうだ。緑の葉に散った豆腐の白を雪に見たてたのだろう。
ロマンチックな呼び名である。

ちょうどこれからがマンバ……三池高菜の旬。豆腐と一緒に煮つけて、ちょっと早めの初雪を体験しませんか。

(のなかなおみ)
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