カップラーメンができあがるまでには、お湯をそそいで3分間待つのがほぼ世間の常識である。おかげで、3分間しか地球にいられないウルトラマンは、カップラーメンを食べることができない……とは、80年代の明星食品「チャルメラ」のCMでもネタにされていた(調べたら1987年に放映されたものだった)。


しかし、80年代にはすでに1分間でできるカップラーメンが存在した。やはり明星食品から1983年に発売された「QUICK1」がそれである。そのCMには、当時再結成していたザ・タイガース(沢田研二や岸部一徳・四郎兄弟などが在籍したバンド)が出演し、けっこう話題になったと聞く。ただ、QUICK1にはあとで述べるように重大な“欠点”があったため、定着することなくいつしか姿を消してしまった。

それがここへ来て、ふたたび1分間でできるカップラーメンが店頭に出現しつつある。今回の火つけ役も明星で、昨年2月発売の「バリカタ細麺」に続き、10月には「チョッパヤ」の“バリカタ麺&とんこつ”が発売された。そして年が明けてこの1月10日には、新たにチョッパヤの“極細麺&ポークペッパー醤油”がリリース、チョッパヤンなるマスコットキャラも登場して、Twitterのほか東京・名古屋・大阪の街頭での「1分間サンプリングキャンペーン」などを通じてPRが展開された。

このチョッパヤの“極細麺&ポークペッパー醤油”は、発売されてからすぐ私もコンビニで買い求め、食べてみた。時計の秒針が1周したのを確認するや、さっそく別添の調味油を混ぜて口にする。麺はまだ少し固いような気もしたものの、これはこれでイケる(お湯を入れて2分ぐらいするとほどよい固さになってくる)。もともと固めの細麺が好きな自分には好みの食感だ。何よりスープがうまい。
黒胡椒がよく効いていて、やみつきになりそうである。ただ、1分間ではお湯も十分に冷めていないので、食べる際には十分注意されたい。この熱さは、スキー場など冬の屋外で食べるのに向いているかも。

ちなみに先行商品であるバリカタ細麺は、フライ麺をレギュラーサイズの容器に収めたものだが、チョッパヤは、ビッグサイズの容器に新製法ノンフライ麺を使用している。「タテ型ビッグサイズで『ノンフライ麺』を使っているのは明星食品だけ」だとか。

ノンフライ麺とは、油で揚げて乾燥させる「油揚げ麺」(フライ麺)に対して、熱風をあてて乾燥させた麺のことをそう呼ぶ。明星はこのノンフライ麺の製法を独自に開発、13年前には「スーパーノンフライ製法」(くわしくはこちらを参照)を確立して、さまざまな質の麺をつくり出せるようになった。チョッパヤではその技術をさらに進め、1分間で湯戻りし、しかも食べ終えるまでのびにくい麺質に仕上げている。

じつは、かつてのQUICK1の欠点はまさに、麺がすぐにのびてしまうという点にあった。たしかに、普通のカップ麺より早くできる分、麺も早くのびるというのは当然かもしれない。チョッパヤ開発でもっとも苦労したのも、麺をのびにくくするための最適な製造条件を見つけることだったという。明星食品・マーケティング本部の植田裕之さんによれば、その条件を見つけ出すのに、昨年春の開発開始から半年以上もかかったのだとか。
「毎日、試作しては試食確認する日々を送り、工場でも何度もテストを行ないました」(植田さん)。こうしてチョッパヤはQUICK1の欠点を見事にクリアしたのである。

さて、忙しくて昼食を食べる時間も惜しむようなビジネスパーソンを想定して開発されたというチョッパヤだが、今後どのような展開を考えているのだろうか。これについて先述の植田さんに訊いてみたところ、「今後もチョッパヤが持つインパクトのあるブランドネーミングとパッケージデザインにこだわり、『時短』という新しいニーズにふさわしい、おいしくて超速い商品を展開していきたいと考えております。ご期待ください!!」との答えが返ってきた。

開発期間は正味半年、さらにQUICK1から数えれば27年……「時短」を徹底的に追求したカップラーメンが誕生するまでには、そうとうの時間がかけられていたのである。(近藤正高)
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