LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)のロゴ。
フォントは、Futura(フツラ)。

Macにも標準搭載されている有名なフォントだ。
しかも何かつけ加えてあるわけじゃない。
なのにLOUIS VUITTONのロゴは高級な感じがする。
なぜか?

字と字との間の距離が開いているから。
ふつうの字間よりも、ほんのちょっと開いて配置するだけで、
“ゆっくり低い声で語る大人のトーンみたいな威厳”が出てくる。

というのは、『フォントのふしぎ』という本からの受け売り。
著者は、小林章。
アルファベットのデザインの専門家としてドイツの会社で働いている。「Helvetica」というドキュメンタリー映画の字幕の監修も彼だ。

本の中では、一般的な字間の組み方と比較してあって、その受ける印象の違いに驚く。
マイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」のタイトルも、少し文字の間を開いて組むことで王道感をだしてるのだ。

この本の前半は、ブランドロゴや、ヨーロッパの街並みにあるフォントを、写真を使って紹介している。

どういったフォントが、どんなふうに工夫して使われているかを実例と共に解説してくれる。
最初に紹介した王道感も、古代ローマの碑文へと繋がり、さらに詳しくフォントの謎を探求していく。

第4章「意外と知らない文字と記号の話」も、おもしろい。
たとえば、アルファベットのX。
太い線2本をまっすぐクロスさせるだけでは、なんだかヘン。まっすぐに見えないのだ。
一般的なフォントでは、それぞれの線を意図的にずらしている。そうすることでようやく線がまっすぐクロスしているように見える。
また、黒みが集中しないように、中心に近づくほど細くするという工夫もなされているそうだ。

第4章から、もうひとつ。
AとVのなぞ。
左右の斜めの線。
Aは左が細くて右が太い。Vは逆で、右が細くて左が太い。
たいていの書体でそうなっている。どうしてだろう?
“古代ローマの人は碑文を彫りはじめる前に平筆か刷毛のようなもので下書きをして、それから彫ったと考えられています。それが今のアルファベットのバランスになった”。
平筆で書くとき、筆は左端が少し下がると書きやすい。で、書いてみると(本では実際に書いた文字もあってとてもわかりやすい)、Aは右が太く、Vは右が細くなる。

どういうふうにフォントを選べばいいんだろう?
という質問には「フォントは見た目で選んでOK」なんだよということをていねいに教えてくれる。
「Futuraはナチスのフォント」なんていう日本でしか聞かない都市伝説まがいの言説もあるそうだ。
日本人は真面目だから、ついついルールを暗記するようにフォントを使いこなそうとしてしまうのかもしれない。でも、 “マルバツ式の考え方にならないで、気楽に気楽に”。
この本を読んでいると、フォントを見たり、選んだりすることが楽しくなってくる。
興味もわいてくる。
まえがきの言葉を引用しよう。
“一日でルールを丸暗記して翌日から完璧にできる、というものじゃないんです。周りを見てきて、時代の移り変わりも経験して、10年とか20年かけて自然にゆっくり身についたもので、子供の頃からの経験とか記憶の蓄積です”。(米光一成)
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