稲田耕三は、1949年、三重県に生まれた。上に兄貴が二人おり、長兄は地方の国立大の医学部へ、次兄も同じ大学の農学部へ進学していた。父は非常に教育熱心で厳しい人物だったというが、耕三自身、元々頭の出来は悪くなかったようで、自分でも将来は医学部への進学を夢見るようになる。
ところが、そうはうまくいかない。
青雲の志を抱いて高校へ進学した稲田耕三は、いきなり番長グループに目をつけられてしまうのだ。別にケンカをするために高校へ入ったわけではないのだからと、相手にしないようにしていても、向こうからケンカを売ってこられては逃げようがない。で、これまた困ったことに、耕三は生まれつきケンカの才能に恵まれていたようで、あっさり相手を叩きのめしてしまうのだ。一躍、耕三の名前は学内に響きわたる。そうなるとまた因縁を吹っかけてくる奴があらわれ、ケンカになって、また勝って……。
そんなことを繰り返していれば、おのずと慕ってくるのは悪い仲間ばかりだ。自分はこんな自堕落な学園生活を送っている場合じゃない、と頭ではわかっていても、ついつい、ケンカに明け暮れ、学校をサボり、隠れて煙草を吸い、仲間の家で酒を飲む。これじゃ成績なんて落ちる一方だわなあ。