ホラー映画好きの男子は気になる女子を誘って「ブラック・スワン」行くがいいよ。
「えええー、バレエ映画なんでしょー」とか言ってるボンクラくん、間違ってます。

ホラーです、サイコスリラーです。そして言葉の真の意味での官能映画です。
観てる途中で感じやすくなっちゃってびくーっってしてポップコーンひっくり返したもん(ごめんなさい劇場)。

アカデミー賞主演女優賞受賞したナタリー・ポートマン演じるニナはバレエダンサー。白鳥の湖のプリマドンナに選ばれ、純潔なホワイトスワンと邪悪なブラックスワンの二役を演じる。
だが、邪悪なブラックが全然踊れない。
「もっと強く、官能的に、リアルに! 情熱的に! 誘惑しろ!」
プリマドンナとしてのプレッシャー、うまく踊れない絶望と焦燥。
自由奔放な黒鳥になれないニナがじょじょに精神を壊していってぎゃーーーっていうホラーなのだ。

監督は、「π」「レクイエム・フォー・ア・ドリーム」「レスラー」のダーレン・アロノフスキー。
ホラー的不安は最初からガンガンくる。足になじませるためにハサミでトウシューズのそこをガシガシやるアップ。揺れるカメラ。
ドッペルゲンガー的に登場するキャラクター。母の部屋の不気味な絵の目が一瞬動く演出。鏡の中の自分が! 背中の傷。爪の逆剥けをはがそうとしたらべりべりーーーって! ぎゃーーー。
背中の傷は眠ってる間の自傷行為らしく、母親が「またやったのね」と、ニナの爪を切る。
母親はニナを過保護的に抑圧しているらしいことが、その前のシーンでわかってるのでこちらは気がきではない。
いやいや、自分で切って。その爪きる音をジャキンジャキンって強烈に響かせるのやめて。こわいこわいこわい。もう半分目をつぶってます。「自分でできるからママプリーズ」と涙眼でニナも言ってるから、じゃきん! ぎゃーー!
そもそもこの歪んだ母子関係もホラー映画定番のモチーフだ。「ブレインデッド」とか「キャリー」とか。

ってもニナが自分で爪を切っても油断できない。鏡に映るニナの顔が瞬時に悪の顔になってぎゃーーー。ナタリー・ポートマンの顔芸のすごさは絶品。最初は始終いまにも泣きそうな不安を抱えた顔なんだが、これが中盤から狂気と不安と美と悪が入り混じり、くるくる入れ替わる顔芸。デビュー作「レオン」では素直な魅力でキュートさを振りまいていた女の子は、完璧な女優になっておられた。
濃厚なレズシーン、自慰シーンなど、エロシーンも満載だ。
っつーか、ひとりベットで自分にタッチしてるシーンでホラー的に音楽が盛り上がって、え? え? なに? なにが起こるのと観客はビグビグになって、ぎゃん!って音楽とともにニナが反対側振り返るとぎゃーーーーーー! 思い出すだけで身震いする。恐ろしすぎる。

山岸凉子がすぐれたホラー漫画を描き、バレエ漫画も描いているのは偶然ではない。その理由がようやく実感として理解できた。
バレエとホラーは、肉体を過敏に意識するという根っこで深くつながっている。そしてエロっつーか官能も身体性に関わっている。
いじめるように自分の肉体を駆使して美に近づくバレエダンサーに感情移入させられ、その敏感になった肉体を刺激する演出の連続が、観客を恐怖/興奮させないわけがない。
そして恐怖だけじゃなくて、官能と美と芸術が一体となるラストシーン。
断言しよう。
男子諸君、女子を誘って「ブラック・スワン」を観よ!
見終わったあと、感じやすい身体を持て余した状態になることを保証しよう。
あえて下世話ないいかたをするなら、やれる映画ベスト10、完全にトップ独走です。

あ。いまネットで調べてしったんだけど、ナタリー・ポートマンは電撃結婚&妊娠してる。あいては振付師&共演者のベンジャミン・ミルピエだ、な、ほら!(米光一成)
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