松本大洋だ!
失礼を承知のうえで言います。
5月27日(金)に、第15回手塚治虫文化賞授贈呈式(浜離宮朝日ホール)が浜離宮朝日ホールで行われた。2010年に刊行された単行本を対象に選考されたもので、今回の受賞作品は、
マンガ大賞 『JIN-仁-』村上もとか
マンガ大賞 『竹光侍』松本大洋 作・永福一成
新生賞 『鋼の錬金術師』荒川弘
短編賞 山科けいすけ( 『C級さらりーまん講座』(小学館)、『パパはなんだかわからない』(週刊朝日連載))などサラリーマンを描いた一連の作品に対して)
贈呈後のコメントでは、
「ちからいっぱい描けた作品。制作中は楽しくて、終わるのがやだな、と思ったことも何回かあったくらいです」
淡々と話してはいるが、作品への愛情がうかがえる。「ああ、この人が『竹光侍』を描いたんだ」という当たり前のことを、改めて実感した。
贈呈式が終わり、17時からは受賞者と選考委員によるトークイベント。前半は村上もとか×永井豪、後半は松本大洋×永福一成×中条省平の2部構成だ。
背景を松本さんと妻(マンガ家の冬野さほさん)の2人だけでやっていたことや、専門の人に下絵を送り、言葉遣いや屋根の角度など厳密な時代考証のもとに描かれたこと。また、主要人物だけでなく、猫や馬などのセリフや生活も描かれ、ひとつひとつのキャラクターがちゃんと作品世界に生きていることについて、
「動物がしゃべっているのは、メシ(ねずみのキャラクター)も含めて大洋のオリジナル。原作の方にフィードバックさせてもらいました」(永福)
「永福さんの原作でストーリーが進んでいくので、僕も動物のストーリーを作りました。遊びはやらせていただこうと」(松本)
など、知ったうえで読むと『竹光侍』がよりおもしろくなりそうなエピソードが語られた。
メシがいるから、木久地がただの悪役ではなく愛すべきキャラになっているんだよな。松本さんがあえて加えた理由を考え、うんうんと納得してしまった。
さて、こちらは他の受賞者の方々のコメント。まずは村上もとかさん。
「手塚先生によって、マンガというものが読者にとって身近な表現手段であるということ、マンガというのは無限の可能性を持っているんだということを教わったと思っています。ますます気を引き締めて、もっとマンガの可能性を広げられるものにチャレンジしていきたいと思っています」
マンガへの熱い想いがと誠実さが伝わってくる。悩みながらも自分の職務をまっとうする南方先生のようだ。
僧侶でもある永福一成さんは、僧服姿で登壇。
「僕に原作を依頼してくれた松本大洋くんに、特に感謝したいと思います」
と、大学の先輩後輩関係(永福さんが先輩)である松本さんにお礼を述べる一幕が印象的だった。
「この作品に関わってくれたみんな、なにより9年もの長い間俺たちの旅を見守ってくれた読者のみんな、ほんとうにありがとな!」
荒川弘さんの代理で出席したアニメ『鋼の錬金術師』エドワード役の朴瑠美さん。荒川さんからの手紙をアナウンサーのようなきれいな声で読んでいた朴さんは、最後にすうっと深呼吸をすると、エドに変身。いやあ、かっこいいっす!
「マンガを読むのは大好きなんですけど、描くのはきらいでして」
このひと言から始まり、ひときわ客席の笑いを誘っていたのが、山科けいすけさん。
「自分に向いていない職業で、これまた手塚賞という自分に向いていない賞をいただく。そんなマンガ的な人生を歩む自分は、マンガ家に向いていないこともないんじゃないかと思います」
ボソボソと自虐的なことを話す姿は、『C級さらりーまん講座』の雰囲気そのもの。
描き手の作品に対する想いと、その人自身の魅力がたっぷり感じられた贈呈式。
わたし、これからもっともっとマンガを読みます!(畑菜穂子)